2位にメタンスルホニル基を有する鎖状のジエン鉄錯体に対して,一酸化炭素雰囲気下,芳香族化合物と塩化アルミニウムあるいは塩化ガリウムといったルイス酸を作用させることで,アリールメチル基を有するビニルケテン鉄錯体の合成ができることを見出した。なお,芳香族としては,トルエン・キシレン等のアルキル置換ベンゼンが収率よく反応することが分かった。 本研究課題で合成したアリールメチル基を有するビニルケテン鉄錯体に対して,種々のアセチレンを作用させたところ,比較的良好な収率で,多置換フェノールの合成ができることを見出した。一般に,ビニルケテン鉄錯体はアルキニルエーテルとのみ反応して,フェノールが得られることが分かっている。しかしながら,本研究課題で合成したアリールメチル基を有するビニルケテン鉄錯体は,アルキル置換のアルキン類とも反応するため,フェニルメチル基のパイ電子の配位が反応中間体の安定化に寄与していると考えている。 一方,ビニルケテン-鉄錯体はビニルケテンイミン-鉄錯体に変換できることが知られている。そこで,本研究課題の手法で合成したビニルケテン-鉄錯体をビニルケテンイミン-鉄錯体に変換し,種々のアルケン,アルキンとの反応を試みた。その結果,電子求引基を有するアルケンを作用させたときに反応が進行し,多置換ピロールが合成できることを見出した。 通常ビニルケテン-鉄錯体はアルケンと反応すると,多置換フェノールが得られるため,ビニルケテン-鉄錯体をビニルケテンイミン-鉄錯体からは多置換アニリンが得られると予想される。しかしながら,本反応においては配位子の炭素骨格の組換えが起こるという全く報告例のない新規反応であることが分かった。
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