研究課題/領域番号 |
25410053
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
福澤 信一 中央大学, 理工学部, 教授 (50173331)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 環化付加 / アゾメチンイリド / 双極子 / 不斉合成 / キラル配位子 / フェロセン |
研究実績の概要 |
不斉1,3-双極子環化付加反応において,双極子であるアゾメチンイリド前駆体として,鎖状のグリシンイミノエステルが主として研究されてきた。本研究ではピロリンエステルを環状アゾメチンイリド前駆体として,初めて不斉1,3-双極子環化付加反応に応用し,双極子としての可能性に関して探求した。すなわち,キラルな銀または銅錯体触媒を用いて,アゾメチンイリド前駆体としてピロリンエステル,求双極子としてマレイミドとの不斉環化付加反応に関して研究を行った。 まず,酢酸銀と種々のキラル配位子を用いて金属錯体触媒の最適化を行った。著者らが開発をしたキラルP,Sー配位子であるThioClickFerrophos錯体を用いた場合に,70%収率,80% 鏡像体過剰率で環化付加物である7-アザノルボルナンエステルが得られた。次に,置換ピロリンエステルの適用限界を研究した。ピロリンエステルのフェニル基上の置換基の電子的および立体的な要因に対して,反応はほとんど影響を受けず,また配位性の置換基であるチエニル基の場合でも,好収率,高立体選択的に反応が進行した。 鎖状アゾメチンイリドとして,グリシンイミノエステルとビスリン酸アリリデンとの反応に関して研究を行った。酢酸銀とThioClickFerrophos配位子との錯体を用いて反応を行うと,テトラヒドロフラン中,炭酸セシウム存在下,室温で反応は円滑に進行し,共役付加生成物を好収率で生成することが判明した。生成物はアミノ基とリン酸基の立体化学に関してsyn体とanti体の混合物であるが,主としてsyn体が生成し(syn/anti = 80/20),syn体のエナンチオ選択性は極めて高い(最大99% ee)。反応は,ビスリン酸アリリデンのフェニル置換基の種類に影響されない。またチエニル基やピリジル基などのヘテロ環にも影響されずに,共役付加物を高収率,高エナンチオ選択的に生成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新しい双極子として,環状アゾメチンイリド前駆体であるピロリンエステル(2,3-ジヒドロピロールエステル)を世界で初めて開拓でき,これとマレイミドのような活性アルケンとの不斉環化付加反応が好エナンチオ選択的に進行させることに成功した。また,求双極子として,研究例が僅か一例しかなかったビスリン酸アリリデンとの反応にも期待通りの成果が得られた。 また,現在ピロリンエステルとニトロアルケンとの反応の研究に着手しており,銀または銅錯体触媒を用いることで,立体化学の制御が多様に行える知見を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
環状アゾメチンイリド前駆体であるピロリンエステルの関与する,不斉双極子環化付加およびこれに関連する不斉共役付加反応に関して研究を推進する。現在,ニトロアルケンとの反応に関して研究を開始している。この反応は,マレイミドと異なり,環化付加反応ではなく共役付加反応が進行することが分かった。文献によると,共役付加物は環化付加物の中間体で有り,これを塩基などで処理をすると環化付加物へと変換できることが知られている。銀錯体触媒を用いたときと銅触媒を用いたときで,反応のジアステレオ選択性が異なる知見を得ている。本反応に関する研究を更に進めて,11族金属錯体触媒による立体の多様性制御が達成できると,本研究計画は成功を収めることができると確信している。
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次年度使用額が生じた理由 |
液体高速クロマトグラム用のキラルカラム購入費として20万を予定していた。レンタルカラムを利用して合成したキラル化合物を分離することが可能なカラムを探索していたが,適当なカラムが年度内の研究期間に見つからなかった。従って,購入を見送り,次年度の購入費として計上することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
合成サンプルを分離可能なカラムが見つかった場合は,キラルカラムの購入費に使用する。
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