本研究はCTID(Charge-transfer-induced decomposition)型ジオキセタンについて、先例のない固相でのCTID型発光系のトリガリングシステムを構築し、ジオキセタンの立体化学がその発光にどう反映するかを直接明らかとすることを目的とする。 27年度では母核となる3-ヒドロキシフェニル置換双環性ジオキセタンについて前年度に引き続き固体状態の熱分解を調べた。母核ジオキセタンでは非極性溶媒中での熱分解と異なり、オキシドフェニルエステル種が発光種と考えられるCTID型の発光が進行した。X線単結晶構造回析よりヒドロキシ基と別の分子のジオキセタン環酸素との分子間水素結合に起因することが分かった。また、3-ヒドロキシフェニル基の4位に2-フルオレニル基を導入したジオキセタンでの固相熱分解を検討したところ、ヒドロキシフェニルエステルが発光種であることが分かった。フルオレニル体のX線構造回析から、基本骨格と同様な分子間水素結合(80%)のほか、20%が別の分子のテトラヒドロフラン環の酸素と水素結合していることがわかった。このフェノール性OHとテトラヒドロフラン環酸素との水素結合は強いもののCTID型発光につながるものではなく、分子間水素結合ネットワークに基づくジオキセタンの固体CTID型発光では、ジオキセタン環酸素への水素結合が重要な役割を果たしていることがわかった。 本研究では固相トリガリングシステムとして、ESIPTに基づく発光を示す4-ベンゾアゾリル-3-ヒドロキシフェニル置換ジオキセタンのような分子内水素結合を利用できるほか、ジオキセタン同士の分子間および他分子との水素結合が利用可能であることがわかった。
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