研究概要 |
本研究では,2つのシリル配位子部分がキサンテン骨格で連結された多座配位子(以下xantsil("キサントシル")と略記)を持つ新しい配位不飽和イリジウム錯体の合成,および同錯体を触媒とした反応について検討し,下記1,2の成果が得られた。 1 4,5-ビス(ジメチルシリル)-9,9-ジメチルキサンテンxantsilH2とIr(I)クロリド(シクロオクテン)錯体とを反応させた後,ホスフィンPCy3を加えさらに反応させることで,Si-H酸化的付加を経てビス(シリル)配位子xantsilを持つイリジウム-ホスフィン錯体Ir(xantsil)(PCy3)Cl (1)が得られた。X線結晶構造解析により,錯体1は結晶中で金属周りがシーソー型の幾何構造をとり,PCy3の2つのシクロヘキシル基にあるC-H結合と金属との間に極めて弱いアゴスチック相互作用を持つことがわかった。この相互作用を無視すると1は形式的に14電子錯体みなせる。また,NMRスペクトルの測定結果から,錯体1は固体状態では単一の14電子型の錯体として存在するのに対し,溶液中では14電子型錯体と,xantsilが2つのケイ素とキサンテン骨格の酸素とで三座配位した16電子型の錯体(推定構造)との平衡混合物となることが明らかとなった。 次に,錯体1のクロリド配位子をトリフラト配位子に置換すると,xantsilがSiOSi型で三座配位した16電子錯体2へと定量的に変換されることがわかった。 2 得られた錯体1は,1気圧の水素雰囲気下で3,3-ジメチル-1-ブテンを水素化する触媒となることがわかった。また,化学量論反応の結果から,この触媒反応は1に水素分子が酸化的付加したジヒドリド錯体の生成を経て進行することが示された。さらに,1はジフェニルアセチレンの第三級シランによるC≡C三重結合のヒドロシリル化に対しても触媒活性を示すことを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で合成した配位不飽和イリジウム-xantsil錯体1,2の反応性・触媒活性に関する研究を発展させ,同錯体を触媒とした新しい反応の開発を目指す。また,金属や配位子によって錯体の構造・反応性がどう変化するかを系統的に明らかにし,より高活性な触媒を開発するための基礎的知見を得るため,(1)イリジウム以外の9族および10族遷移金属(Co, Rh, Ni, Pd, Pt)のxantsil錯体,および(2)錯体1,2のxantsil以外の配位子部分を変えた類縁錯体をそれぞれ合成し,その触媒性能を比較する予定である。さらに,xantsilの類縁配位子として,同配位子の片方のシリル配位子部分をホスフィン配位子部分に変えた新しい多座配位子を最近開発したので,その9族および10族遷移金属錯体についても併せて合成を検討し,得られた錯体の反応性および触媒活性をxantsil錯体と比較する予定である。
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