研究実績の概要 |
1 シリル配位子部分とホスフィン配位子部分を併せ持つキサンテンを基本骨格とした新しいSi,O,P型キレート配位子"xantSiP"を開発した。また,金属として,類似のビス(シリル)キサンテン誘導体"xantsil"が配位した錯体について多くの研究実績のある8族遷移元素のルテニウムを対象とした。まず,配位子前駆体となるホスフィノ(シリル)キサンテン誘導体xantSiP(H)を合成し,次いでRu(H)(PPh3)3Clとの配位子置換反応を行いヒドリド(η2-シラン)錯体Ru{xantSiP(H)}(H)(PPh3)Cl (錯体1)が得られた。錯体1をスチレンと反応させたところ,η2-シラン配位子の水素とヒドリド配位子が脱離し,エチルベンゼンの生成を伴って16電子シリル錯体Ru(xantSiP)(PPh3)Cl (錯体2)へと変換されることがわかった。さらに,錯体2は水素と室温で反応し錯体1が生成した。得られた知見を応用し,錯体1を触媒としたアルケンの水素化反応を開発した。上述の結果は,金属-ケイ素結合上での可逆的な水素化/脱水素化を経てアルケンが水素化される新しい反応様式を実験的に明らかにした点で学術的価値がある。本研究成果を国際学会で発表するとともに,学術雑誌に論文として報告した。 2 ビス(シリル)キレート配位子xantsilを持つ3種類のイリジウム錯体Ir(xantsil)(PCy3)X (錯体3; X = Cl, OTf, I; X = Iの錯体は本年度合成した)について,アルケンの水素化反応に対する触媒活性を比較した。その結果,配位子Xの電子求引性が増大(OTf > Cl > I)するほど,錯体3の活性が向上することがわかった。この傾向は,本反応の律速段階と推定されるアルケンの金属への配位が,より電子不足な金属中心を持つ錯体の方が容易となることに起因すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
シリル配位子部分を含むキサンテン誘導体であるxantsil (Si,O,Si型配位)およびxantSiP (Si,O,P型配位)がキレート配位した反応活性な遷移金属錯体を合成し,それらを触媒とした有機ケイ素化合物の変換反応を開発する研究を引き続き実施する。当初の研究計画では,金属として9および10族遷移元素を対象とする予定であったが,8族遷移元素(Fe, Ru)も対象に含める。特に,下記1,2を重点課題とする。 1 Ru以外の8~10族遷移元素を中心金属としたxantSiP錯体を合成し,得られた錯体と不飽和有機分子(アルケン,アルキン等)およびヒドロシランとの化学量論反応をそれぞれ検討する。同反応の結果を応用し,xantSiP錯体を触媒とした不飽和有機分子のヒドロシリル化反応や脱水素シリル化反応を開発する。 2 これまでの研究で合成したRu-xantSiP錯体1,2およびIr-xantsil錯体3を触媒として用い,有機合成における利用価値の高い不活性なC-H結合の変換を含む反応を開発する。具体的には,触媒量の錯体1~3存在下での芳香族化合物とヒドロシランとの反応を検討し,芳香環C-H結合の脱水素シリル化が進行するかを調べる。
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