本研究では,目的とするヒドリド錯体系を構築するため,支持配位子に酸化還元活性な二座ナフチリジン誘導体,二量化を防ぐ嵩高い軸配位子としてトリフェニルホスフィン,さらに強いパイ電子受容性をもつカルボニルからなるルテニウム錯体を創成した。 研究1年目には上記目的錯体系の合成法を確立し,所望の分子構造であることを各種分光分析やX線構造解析で確認した。さらに分光電気化学測定により,錯体の1電子還元及び再酸化に伴い分子内環化反応が可逆的に起こることが分かった。一方,還元剤を用いて錯体を化学的に還元すると,2種類の還元生成物(金属ヒドリド錯体及び有機ヒドリド錯体)が確認された。 この成果を踏まえ,研究2年目にはより有用な有機ヒドリド錯体を選択的に合成するため,カルボニル配位子の保護・脱保護という有機化学的手法を導入した。その結果,分子内環化反応に伴い有機配位子ナフチリジン中の炭素原子が水素化された。しかし,形成した有機ヒドリド錯体中のヒドリド部位は化学的に安定であり,基質への水素供与能に乏しいことが明らかになった。 そこで研究最終年度(本年度)は,上記の欠点を克服するために支持配位子(ナフチリジン誘導体)の電子的・立体的な見直しを行った。新規の錯体系は従来の錯体系と同様の分子構造であること,及び錯体の1電子酸化還元に伴う可逆的分子内環化反応が起こることを確認した。さらに,錯体の化学的還元反応生成物は,同一分子内に金属ヒドリド部位と有機ヒドリド部位の両方を含む“ハイブリッド”ヒドリド錯体であった。得られたハイブリッド錯体から基質(アクリジニウム)への水素供与実験を行い,基質への水素移動が起こることを明らかにした。 以上の研究を通じて,金属錯体上から有機基質への水素移動反応が確認できた。本研究成果は,真に“グリーン”な水素化反応に発展する可能性をもつものと期待できる。
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