研究課題/領域番号 |
25410060
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
島崎 優一 茨城大学, 理学部, 准教授 (80335992)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ニッケル / 高原子価 / 酸化 / フェノキシルラジカル |
研究実績の概要 |
平成26年度は形式的にNi(IV)の電子状態ならびに、立体的要因による電子状態の変化について検討するため、キレート環の大きさが異なるサレン配位子を用いたNi(III)-フェノラート錯体の一電子酸化体の詳細な電子状態について検討した。 Ni(III)-フェノラート錯体のCVに基づき低温で電解酸化すると、ニッケル(III)に特徴的な約500 nmの吸収帯の強度が減少し、新たに400 nm, 425nmに吸収帯を示す化学種へと変化した。しかしながら、近赤外領域において5員キレート環を有する酸化体は1700 nm付近に新たな吸収帯を観測したが、6員キレート環を有する酸化体においては近赤外領域の吸収帯が観測されなかった。各ニッケル(III)の一電子酸化体のX-band ESRは、4 K、0-500 mTの範囲において不活性であったため、ESRからは詳細な電子状態の決定ができなかった。 そこで、酸化体における金属イオンの価数の決定ならびに溶液中での構造を決定するためにこれらの錯体のk-吸収端におけるXAFSを測定した。XANES領域について 5員キレート環を有する酸化体のエッジ、プリエッジはNi(III)錯体である錯体と比較し、大きなシフトは観測されなかったが、6員キレート環を有する酸化体ではプリエッジが8333.4 eVに、エッジが8345.4 eVに観測され、6員キレート環を有するNi(III)と比較し約0.7 eV低エネルギー側へシフトした。このことから、5員キレート環を有する[1cn-py]2+は酸化前と同じNi(III)種であり、Ni(III)-フェノキシルラジカル種であるが、6員キレート環を有する酸化体は酸化に伴いニッケルイオンが還元されたNi(II)-ビスフェノキシルラジカル種であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、前年度までに酸化可能であると同定でき、各種Ni(III)-フェノラート錯体の一電子酸化体の詳細な同定ならびに、その電子状態を決定することができた。さらに、その電子状態が、キレート環の大きさにより、電子状態が大きく異なることを示すことができた。特に、6員キレート環を有するNi(III)錯体の一電子酸化体は、酸化に伴い金属イオンが還元され、配位子が2電子酸化された化学種の生成が確認され、あまり例のない反応であることを見出した。以上の結果から、おおむね順調に推移していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度までにニッケル(II)の2電子酸化体の電子状態をNi(III)錯体について検討し、その電子状態はキレート環に依存して大きく異なる電子状態であることが判明した。それをふまえ、平成27年度は、銅(II)錯体の2電子酸化体の電子状態の決定ならびに反応性の検討を、ニッケルのときと同様に行う。銅(II)錯体の2電子酸化体の生成は平成26年度までに生成可能であることを見出しており、その結晶化を行い結晶構造解析をおこなう。また、磁気的性質や各種分光法をもちいて、銅(II)錯体の2電子酸化体の電子状態を明らかにする。また、一電子酸化体と比べ反応性がどのように異なるかについても、ベンジルアルコールの酸化反応等を検討することで、どのような性質を有するのかについて知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
ニッケル錯体の二電子酸化体の性質について、当初の計画よりも進展があったため、平成27年度に予定の実験を前倒しして行うことで、さらなる研究の進展をはかるため前倒し使用の申請をした。しかし、実験に必要な一部の試薬の納期が平成27年5月以降とされ、年度内に購入できなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
実験に必要な一部の試薬が納入され次第、実験を円滑に進める。
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