平成27年度は、形式的に銅(IV)である高酸化状態の銅錯体の生成とその詳細な電子状態について検討した。また、フェノールの置換基による高酸化状態の安定化について検討した。さらにその単離・結晶化について検討した。 フェノールのパラ位にメトキシ基、メチルチオ基または、ジメチルアミノ基を導入したsalen配位子をもちいて銅(II)錯体を合成し、その酸化還元電位を測定したところ、メトキシフェノラート錯体については、2つの可逆な酸化還元波がそれぞれ0.41 V、0.55 Vに観測された。ジメチルアミノフェノラート錯体については、2段階目の酸化還元過程は不可逆波として観測されたことから、2電子酸化体が不安定であると考えられる。一方、メチルチオフェノラート錯体は不可逆な酸化波のみを0.32 Vに観測した。 メトキシフェノラート錯体の2電子酸化体は、一電子酸化体を単離したのち、チアントレニルラジカルを一当量加えることで調整することを試みたが、単離同定には至れなかった。一方、メチルチオフェノラート錯体の2電子酸化体はチアントレニルラジカルを2等量加えることで紫色日結晶として単離することに成功した。この紫色微結晶のESRはg = 2.02に等方的なシグナルを示し、これまで報告してきた銅(II)-フェノキシルラジカルまたは銅(III)-フェノラートとは大きく異なる磁気的性質を示した。また、共鳴ラマンスペクトルからフェノキシルラジカルであることが示唆されたことから、単離した2電子酸化体は、銅(II)-ビス(フェノキシルラジカル)であることが判明した。
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