研究課題/領域番号 |
25410062
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
小林 義男 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (30221245)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | インビーム・メスバウアー分光 / 発光メスバウアー分光 / RIビーム / ガスマトリックス / 固体メタン / 孤立原子 / 化学結合 / 核プローブ |
研究実績の概要 |
我々の開発したインビーム・メスバウアー分光法は、典型的メスバウアー核種57Feの短寿命親核57Mn(半減期 1.45分)をプローブ核として試料中に直接注入しながら、その場で発光メスバウアースペクトルを測定する高感度な分光法である。得られたメスバウアーパラメータから、極希薄濃度で孤立しているプローブ核の電子状態や化学状態、配位環境、動的振る舞いについての知見を得ることができる。 本年度も昨年に引き続き、放射線医学総合研究所重イオン加速器HIMACの二次ビームコースで57Mnビーム用いた57Feインビーム・メスバウアー分光実験を行なった。孤立原子の化学反応や化学結合を調べるために、メタンとアルゴンの混合ガスの原子数比を変化させて低温ガスマトリックス試料を18 Kで作製した。これらに57Mnを直接イオン注入し、β壊変後に生成した57Feの第一励起準位から放出する14keVのγ線を平行平板電子なだれ型検出器を用いて、インビーム・メスバウアースペクトルを観測した。 得られたメスバウアーパラメータとORCAプログラムによるDFT計算から、Fe原子の電子状態やメタン分子との化学結合を考察した。メタン濃度100 %のマトリックスで得られたスペクトルには、アイソマーシフトI.S.と四極分裂Q.S.の異なる2成分のFeの化学状態が示された。この成分は、直線二配位の[Fe(CH4)2]+であり、Fe原子とメタン分子の結合角の異なる2つの構造異性体であることを明らかとした。メタンとアルゴンの混合比を変化させると、昨年報告したように、励起状態のFe+(3d74s0)の成分がスペクトルに現われた。現在、CH4/Ar比と[Fe(CH4)2]+生成率の関係について検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
短寿命不安定核57Mnプローブを用いた本研究は、従来の長半減期57Coの発光実験では得られていない化学種の同定に成功した。このことは、壊変様式の相違、57Mnはβ-壊変で57Coでは電子捕獲である。EC壊変によるオージェ過程の影響が原因であると考えられる。今回得られた研究成果は、京都大学原子炉実験所専門研究会において講演発表をした。また、現在論文発表に向けてまとめており、2015年夏に開催されるメスバウアー効果の応用に関する国際会議(ICAME2015)で発表を予定している。 孤立プローブの化学反応過程における電子状態や反応過程のナノ秒時間変化を解析するための時間分割測定を確立する目的で、固体試料の水素化リチウムで行なった。57Mnのβ壊変で放出されるβ線とメスバウアーγ線の同時計数法を行なった。この研究成果は、J. Radioanal. Nucl. Chem.誌で発表した。 昨年同様に、放医研HIMAC課題審査委員会からはA評価を頂いた。
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今後の研究の推進方策 |
CH4/Ar混合ガス固体での時間分割測定をしたので、そのデータから孤立プローブの電子状態や反応過程のナノ秒時間変化を解析する。孤立原子の化学反応における電子ダイナミクスの知見を得る。 平成27年度も放医研HIMAC課題審査委員会からビームタイムが承認され、研究が進展できる環境にある。測定温度をより低温の~4.2 Kにした場合に[Fe(CH4)2]+の構造異性体の占有比が変化するかを観測する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、一次ビームとして58Feを用いている。58Feは、天然存在比0.28 %で、これを95 %まで富化した金属58Feを安定同位体として購入した。95 %富化金属58Feを原料に蒸気圧の低い58Fe-フェロセンを合成し、加速器のイオン源としている。イオン源に用いる58Fe-フェロセンが初めの見積りより多く消費し保管量が少なくなったために、2014年12月の加速器実験終了後に58Fe安定同位体を発注し、その支払いは科研費で手当てする予定であった。納期が3~4ヶ月かかるということで年度内の納入がかなわなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
58Fe金属は、発注済である。
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