研究課題
有機EL素子や光触媒反応に遷移金属錯体を用いる場合、リン光状態の熱的な失活をどのように抑えるかという課題があるが、熱失活過程に関与する中間体を分光学的に直接観測することは難しく、熱失活の詳細な失活機構はほとんど解明されていない。本研究では、実測した熱失活過程の活性化エネルギーや活性化体積と矛盾しない反応経路を量子化学計算で探査することで、失活過程を解明する方法の確立を目的としている。本年度は、実測した熱的失活過程の活性化体積を、量子化学計算により高い精度で予測するための分子体積モデルについて検討した。様々な分子体積モデルを用いて計算した溶媒密度を比較検討した結果、これまで活性化体積の計算に用いられてきた溶媒排除体積モデルよりも、ファンデルワールス体積モデルの方が誤差が小さいことを見いだした。これにより、従来のモデルでは計算が難しかった、溶媒付加を伴う熱失活過程の活性化体積について、化学的に矛盾の無い値を得ることが可能になった。さらに、この体積モデルに基づいた量子化学計算により、白金錯体のリン光状態の熱失活の機構として、dd経由の失活機構と溶媒付加機構の2つの過程が存在することを、活性化体積の違いから初めて明らかにした。ジシアノ金錯体の励起二量体のリン光寿命の温度変化を計測し、室温ではピコ秒時間領域で速やかに熱的失活する過程が存在することを明らかにした。さらに量子化学計算による経路探査により、失活の原因となる中間構造を推定した。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件)
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