研究課題/領域番号 |
25410068
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
高橋 一志 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60342953)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 分子間相互作用 / 磁気転移 / 構造転移 / スピンクロスオーバー |
研究概要 |
スピンクロスオーバー錯体は、外場応答する分子スイッチとして注目されている。しかし、スピンクロスオーバー現象を利用した電子物性の外場制御への応用という観点からの成功例はわずかであり、物性変換や環境応答の巨大応答実現のためには継続的な物質開発を通したメカニズムの解明が重要である。そこで、複合金属錯体におけるスピンクロスオーバー現象のメカニズムを明らかにするため、(1)機能性配位子の開発、(2)分子間相互作用の導入、(3)既存金属錯体への外場印可という3通りの方法で検討を行っている。当該年度は(2)についての成果を報告する。スピンクロスオーバーを示す鉄(III)カチオンとスピンを持つ磁性アニオンの間に分子間相互作用としてハロゲン結合相互作用を導入した複合機能性金属錯体の合成を行った。X線結晶構造解析の結果、カチオンとアニオンの間にハロゲン結合相互作用が存在し、磁性アニオンの常磁性状態を安定化していることが明らかとなった。磁化率およびメスバウアースペクトルの温度依存性からこの錯体は160 K付近でスピンクロスオーバー転移を示し、さらにこの転移に伴い拡張ヒュッケル法に基づくトランスファー積分の計算から磁性アニオンが常磁性ー反磁性転移を示すこと、低温相の構造解析からカチオンーアニオン間のハロゲン結合相互作用の消失が確認された。これらの結果からこの協同的な磁気転移は磁性アニオン間のπーπ相互作用とカチオンーアニオン間のハロゲン結合相互作用との競合が原因であることが明らかとなった。これまでカチオン間の分子間相互作用を利用したスピンクロスオーバー錯体において物性変調を実現していたことに対して、この成果はカチオンーアニオン間相互作用の利用が有効であることを示し物質開発の幅を広げる結果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の目的を解明する3通りの方法として(1)機能性配位子の開発、(2)分子間相互作用の導入、(3)既存金属錯体への外場印可の検討を行っている。そのなかで、特に(2)分子間相互作用の利用に関して当該年度に大きな進展があり、分子間相互作用の競合がこれらの複合機能性錯体では重要な役割を果たしていることが明らかとなった。また、その他の2つの手法については、金属錯体そのものの双安定性に関する知見を与えるものであり、(1)については複数の機能性配位子の合成に成功しており、(3)については磁化の圧力効果測定が可能な状態になっている。いずれの方法についても検討は進んでおり、来年度以降それらの成果についてまとめる見通しが立っている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究計画の目的を解明する3通りの方法、(1)機能性配位子の開発、(2)分子間相互作用の導入、(3)既存金属錯体への外場印可の検討を進める。特に、(2)分子間相互作用の導入に関しては当該年度の成果からさらに発展させた物質系の開発、具体的には鉄(II)やコバルト(II)イオンを用いた系や伝導体や誘電体への展開を行っていく。(1)新規機能性配位子の開発に関しては、新規配位子合成に成功しているため、それらの金属錯体の構造と物性について明らかにしていく。(3)既存金属錯体への外場印可については、高スピン鉄(III)錯体や(1)で開発した金属錯体の磁化の圧力応答に関して検討を進める予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
海外誌の論文関係費の引き落としが年度末であった上、残額も少なく有効利用するために繰り越しすることにした。 残額自体少ないため、翌年度分と合算し試薬費などの消耗品費として使用する予定である。
|