研究課題
鉄(III)スピンクロスオーバーカチオンと常磁性ニッケルジチオレン錯アニオン(S = 1/2)との間にハロゲン結合相互作用を導入した複合錯体がスピンクロスオーバーと磁性アニオンのスピン一重項形成がカップルした協同的な磁気転移を示すことを昨年度見出した。常磁性(S = 1/2)―常磁性(S = 5/2)変化である鉄(III)錯カチオンと異なり、反磁性(S = 0)―常磁性(S = 2)の変化である鉄(II)錯カチオンのスピンクロスオーバー現象は共存する常磁性アニオンとの交換相互作用が大きく変化することが期待される。カチオン―アニオン間相互作用として硫黄原子間相互作用に着目し、チアゾールを有する鉄(II)錯カチオンと常磁性ニッケルジチオレンアニオンおよび反磁性金ジチオレンアニオンからなる複合錯体を合成し、その構造と物性について検討をおこなった。X線結晶構造解析、磁化率の温度依存性からこれら複合錯体は同形であり、230から400 Kの間でスピンクロスオーバーを示すことが明らかとなった。また、常磁性ニッケル錯体と反磁性金錯体の比較から、常磁性ニッケルジチオレンアニオンは比較的強いカチオンーアニオン間のカルコゲン結合相互作用、πーπ相互作用のため、すべての温度領域で常磁性状態(S = 1/2)を取ることが明らかとなった。このように強いカチオンーアニオン間相互作用の適切な導入は分子配列のみならず、磁性状態をも制御可能なことを示すことができた。ニッケルジチオレン錯体に対して5 Kにおいて532 nmの光を照射したところ、磁化の小さな増大が観測され、鉄(II)錯カチオンの一部が光誘起準安定高スピン状態(S = 2)にトラップされることが明らかとなった。今後鉄錯体の光誘起高スピンと常磁性アニオンのスピンとの相関について検討を続ける予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画の目的を解明する3通りの方法として(1)機能性配位子の開発、(2)分子間相互作用の導入、(3)既存金属錯体への外場応答の検討を行っている。そのなかで、昨年度に引き続き(2)分子間相互作用の利用に関して大きな進展があり、カチオンーアニオン間への分子間相互作用の導入が機能性制御に重要な役割を果たしていることが明らかにした。また、その他の2つの手法について、(1)は酸化還元活性な配位子やプロトンドナー性配位子の合成とそれらの金属錯体の合成と構造解析に成功しており、今後電子物性の双安定性へ向けた検討を進める段階である。(3)については磁化の圧力効果測定が可能であり、さらに光照射下の電流ー電圧特性の測定を行うことができるよう検討を行っている。いずれの方法についても検討は進んでおり、来年度以降それらの成果についてまとめる見通しが立っている。
本研究計画の目的を解明する3通りの方法、(1)機能性配位子の開発、(2)分子間相互作用の導入、(3)既存金属錯体への外場応答の検討を進める。特に、(2)分子間相互作用の導入に関してはこれまでに多くの成果が認められるため、さらに発展させた物質系の開発、具体的には銅、コバルト(II)イオンを用いた系や伝導体や誘電体への展開を行っていく。(1)新規機能性配位子の開発に関しては、それらの金属錯体の構造と物性を検討しており、今後電子移動を伴う双安定性へ向けた誘導体の合成を検討していく。(3)既存金属錯体への外場応答については、高スピン鉄(III)錯体や(1)で開発した高スピン金属錯体の磁化の圧力応答、導電性錯体の光伝導性に関して検討を進める予定である。
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