研究課題/領域番号 |
25410069
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
中島 隆行 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (80322676)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 複核錯体 / 四座ホスフィン配位子 / ロジウム / 銅 |
研究実績の概要 |
本研究では申請者が独自に見出した直鎖状四座ホスフィン配位子(dpmppp = Ph2PCH2(Ph)P(CH2)3P(Ph)CH2PPh2)を支持配位子とする同種・異種金属複核錯体の系統的な合成及び反応性を検討し,金属間の協同効果の発現された反応性を見出すことを研究目的としている。H26年度は前年度に引き続きdpmpppに支持された[Rh2Cl2(dpmppp)2(L)] (L = XylNC(1), CO(2))とHClとの反応を検討し,最終生成物の[Rh2Cl4(dpmppp)2(L)] (L = XylNC(3), CO(4))の構造をX線構造解析により明らかにすることができた。また,酸素分子が最終生成物の生成には必要であり,ヒドリド錯体により酸素が還元されて,過酸化水素が生成することを予備的検討から明らかにできた。 さらに,dpmpppと銅イオンとの錯形成挙動について検討したところ,銅3核ヒドリド錯体[Cu3H(dpmppp)2](PF6)2が生成することをX線構造解析により明らかにした。ヒドリド配位子は,3個の銅イオンから形成される三角平面の中央に位置した構造を有しており,過去に1例しか類似例のない非常に珍しい構造を有していた。銅ヒドリド錯体はこの条件では二酸化炭素と反応しないものの,銅イオンを共存させて反応を行うと銅-ヒドリド結合へ二酸化炭素の挿入が起ったと考えられるformate錯体が生成することを見出した。今後は二酸化炭素還元における活性な錯体の構造解明と触媒反応への展開を検討している。銅イオンは貴金属に比べ安価であるため,貴金属を用いた錯体と同等な触媒活性を見いだせれば元素代替の観点から興味深く,銅錯体を用いた触媒反応開発は現在盛んに行われている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
四座ホスフィン配位子は従来の四座ホスフィン配位子と比較して,種々の後周期金属イオンの多核化に極めて有効であり,多彩な金属の組み合わせで同種・異種金属イオンを形成できる特徴がある。また,複核錯体における金属-金属間の距離は3Å前後で固定されており,金属間の協同効果を発現させるのに有効な距離となっている。さらに,これまで合成した錯体は低原子価の配位不飽和な錯体であり,高い反応性を示すものが多く,金属間の協同効果に伴う新反応が見出される可能性が極めて高いため。
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今後の研究の推進方策 |
申請書の計画通り研究を推進する予定であり,これまでの成果をさらに発展させるためにロジウム2核錯体や銅3核錯体の反応性には重点を置いて検討する。 ロジウム2核錯体に関しては,Noceraらに検討されているように最終生成物[Rh2Cl4(dpmppp)2(L)]からの光照射による脱ハロゲン化反応により,出発原料錯体[Rh2Cl2(dpmppp)2(L)] への変換を検討する。これが達成できると光触媒反応への展開が図れる重要な知見となる。また,中間体のヒドリド錯体の反応性を検討し,ヒドリドの位置や置換基Lの違いに伴う反応性に違いが現れるかに重点をおいて調べる。 一方,銅錯体においては,最近Haytonらによりジヒドリドと酢酸銅との組み合わせにより銅25核錯体など極めて高次な多核錯体が形成されることが報告されている。この条件を応用してdpmpppや中央の炭素数はエチレン鎖のホスフィン配位子dpmppeを用いて検討を行い,銅多核ヒドリド錯体の合成の可能性についても追及する。銅多核ヒドリド錯体は水素貯蔵材料の観点からも注目されている。 また,異種金属複核錯体MM' (M = Ni, Pd, Pt; M'=Rh, Ir)の合成を行い,それらの反応性についても検討を行う。来年が最終年度に当たることから四座ホスフィン配位子dpmpppの一般的な特徴を種々の金属イオンを用いて明らかにし,包括的に反応性を検証することで触媒反応開発の基盤づくりを目指す計画である。
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