研究実績の概要 |
本研究では直鎖状四座ホスフィン配位子dpmpppを支持配位子とする同種・異種金属錯体の反応性を検討し,金属間の協同効果を鍵反応とする反応開発を目的として研究を遂行した。 1)イリジウム複核錯体上でのC-H結合活性化反応:[IrCl(cod)]2とdpmppp, L (CO, XylNC)をNH4PF6存在下で加熱撹拌すると,dpmpppのPh基のオルト水素が活性化された錯体[Ir2HCl(dpmppp-H)(CO)3]PF6 (1), [Ir2HCl(dpmppp-H)(CO)3]PF6(2)が生成した。同様な反応を室温で行うことにより反応中間体[Ir2Cl(dpmppp)(CO)3]PF6 (3), [Ir2(dpmppp)(XylNC)4]PF6(4)を単離し,これらの中間体を加熱することにより1,2が生成することを確認した。錯体1-4は,内側のホスフィンでイリジウムにシス配位,末端のホスフィンでトランス配位子(cis/trans-P,P’構造)した珍しい構造を有している。DFT計算よりC-H結合の活性化は,隣のイリジウム中心でC-H結合の酸化的付加反応が進行した後に,ヒドリド配位子がもう一方のイリジウムに転移して進行することが明らかになった。これにより,C-H結合の活性化は四座ホスフィンdpmpppで制御されたcis/trans-P,P’構造に由来していることが示唆された。 2)銅ヒドリドクラスターの合成:dpmpppとCuCl,NaBH4をNH4PF6存在下で反応させることにより銅3核ヒドリド錯体[Cu3H(dpmppp)2](PF6)2 (5)が生成した。同様な錯体[Cu3H(dpmppe)2](PF6)2 (6)も合成された。銅3核ヒドリド錯体の合成はこれまでに2例しか報告されていない。ヒドリド位置は種々の分析から3つの銅イオンから形成される二等辺三角平面の中心に位置していると予測される。錯体6はtBuNCと速やかに反応し銅四核ヒドリド錯体[Cu4H2(dpmppe)2(tBuNC)2](PF6)2を生成することを見出した。この錯体は4つの銅イオンが同一平面状に位置するが,歪んだバタフライ構造を有しており,温度可変NMR測定により銅イオンの動的挙動が観測された。
|