研究課題/領域番号 |
25410070
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝義 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (80249953)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 核酸塩基 / 分子機能 / 環状多核錯体 / 擬ヌクレオシド錯体 / 錯体複合体 |
研究概要 |
本研究は、核酸塩基に由来する高選択的な分子またはイオン認識能と、金属フラグメントが有する発光および磁気特性、多段階酸化還元能や触媒活性などを組み合わせた多重機能性物質の開発を目指し、核酸塩基から誘導される陰イオンを含む新規な金属錯体を設計・合成し、その特異な分子および結晶構造と物理的および化学的性質を解明することを目的としている。 本年度は、5種の基本核酸塩基(アデニン、グアニン、チミン、ウラシル、シトシン)アニオンが各々配位した錯体の合成と結晶構造解析に成功した。このうち、N7,N9架橋型二核グアニナト錯体を除いて、ヌクレオシドと同様にプリン残基のN9位またはピリミジン残基のN1位で金属イオンに単座配位した核酸塩基錯体が生成していることを確認した。これらの錯体は、ヌクレオシドと同様に相補的な塩基対間で水素結合相互作用を示すことをNMR測定により明らかにし、選択的な分子認識能を有することがわかった。さらに、アデニナトーチミナト錯体複合体の結晶構造解析に成功し、この核酸塩基錯体間の水素結合がDNA内で通常に観測されるWatson-Crick型ではなく、Hoogsteen型であることを明らかにした。 また、チミンからプロトンを2つ解離することで生じるチミナト(2-)イオンを用いて、ロジウム(III)錯体を合成したところ、チミナト(2-)イオンが架橋した環状四核錯体が生成した。この四核錯体中では、ロジウムイオンに生じたキラリティが揃ったホモキラル集合が達成されていた。また、この環状四核錯体はカリックスアレーン様の分極した構造をしており、極性の高いcone中心部分に様々な金属イオンを取込むことがわかった。しかも、取り込む金属イオンの種類に応じて、チミナト(2-)配位子の架橋構造や環状四核錯体の円錐角が変化していることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画で平成25年度に実施予定としていた標的化合物の大部分を、実際に合成・単離し、その分子および結晶構造を各種分光学的測定法およびX線回折法により決定することができた。また、核酸塩基が配位した錯体間の水素結合相互作用も、NMR法の利用および複合体の結晶化により明らかにすることができた。 チミナト架橋環状多核錯体に関する研究では、研究計画に記載していたアルカリ土類金属イオンのひとつであるカルシウムイオンを内包した錯体の単離に新たに成功した。また、種々のランタノイドイオンを含む錯体についても、その構造解析の精度を向上し、分子および結晶構造を詳細に議論するのに充分な結果を得ることができた。さらに、新しいイオン対であるナトリウムイオンと硝酸イオンを取込んだ環状四核錯体の単離にも成功した。これらの多核錯体の構造と生成条件を検討することにより、研究計画にも示したように、チミナト配位子の架橋骨格構造や環状錯体の円錐様構造の変換に対する金属イオンおよび対アニオンの効果を明らかにすることができた。 新たな標的化合物として計画したグアニナト(2-)架橋環状多核錯体の合成・単離には成功していないが、代わりにグアニナトイオンがN7位とN9位で架橋した二核錯体を単離することができた。この錯体は溶液中でも二核構造を保っており、シトシナト錯体との選択的な水素結合相互作用を示すことも明らかにできた。このグアニナト錯体の他に、アデニナト、チミナト、ウラシラト、シトシナトが単座配位した一連の錯体の合成も成功し、それらの間の選択的な水素結合相互作用の存在も確認することができており、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
特定の分子機能を有する環状多核錯体を構築するため、これまでに合成してきた反磁性錯体フラグメントの以外に、不対d電子やf電子を持つ遷移金属およびランタノイドイオン、スピンクロスオーバー現象や強発光性を示す金属錯体フラグメントや、光学活性な補助配位子を持つ錯体フラグメントを用い、核酸塩基アニオン架橋多核錯体の合成を行う。ここで得られる錯体の物性評価には、電気化学測定、磁化率測定、吸収・円二色性および発光スペクトル測定などを用いる。これらの環状錯体の構造と電子状態および物性の相関を解明し、新たな多重機能性の発現を目指す。 また、金属イオン間の協同効果を利用した新しい機能を発現させるため、環状多核錯体を構成する金属錯体フラグメントに異種金属を用い、段階的なヘテロ金属多核錯体の選択的な合成に取り組む。定電位電解による部分的な酸化還元やpH制御下での部分的なプロトン脱着も試み、環状多核錯体の非対称化に伴う諸物性の変化も明らかにする。さらに、外部刺激として光照射や温度可変によって可逆な骨格構造変換が誘起されるかを検討する。これらの結果から、環状錯体内でのスピンおよび電子の非局在化と物性発現の相関に注目し、錯体の構造と物性の帰属を行う。 核酸塩基間水素結合による金属錯体複合体に関する研究では、金属中心に由来する物性を基にした新しい機能性の発現を目指す。例えば、金属中心の酸化還元や温度変化により、水素結合を介した可逆的な電子移動やエネルギー移動の発現、多重水素結合様式の可逆的な変換や分子認識のスイッチングを試みる。核酸塩基部分での水素結合相互作用の有無を錯体の発光により検出できる新たなセンサー錯体を構築するため、発光性の錯体フラグメントを含む核酸塩基錯体の合成に取り組む。さらに、酸化還元活性な金属イオンを含む錯体複合体の選択的な生成反応の開拓と、その物性の検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、消耗品費および測定機器使用料を節約できたため、少額の次年度繰越額が生じた。特に、消耗品費については、申請者が現在実施している別の研究課題と共通に使用する金属試薬、配位子合成用有機試薬、測定用セルなどを有効利用するため、その一部を本年度は別研究課題に対する予算にて購入し使用した。測定機器使用料は、使用料金体系が改訂されたことと使用回数を厳選したことにより、当初の予算額よりも少なくすることができた。 次年度に繰り越した経費は、本年度未購入分の消耗品費および追加の測定機器使用料に使用する。また、当初は本研究課題と別研究課題で共通して使用するために、次年度中に(本予算にて購入経費の約半額を負担して)購入予定であった電気化学アナライザー本体は、別研究課題の追加予算配置により今年度中に購入することができた。しかし、本研究課題の目的にあった測定法に使用するためには、特殊測定用セルや制御用パソコンプログラム、白金電極や非水溶媒電極などの比較的高価な消耗品が必要であることが判明したため、物品購入費として計上していた予算をこれらの関連消耗品の購入費に充てる。
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