研究課題/領域番号 |
25410076
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
松川 史郎 東邦大学, 理学部, 准教授 (90448259)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 錯体化学 / 配位子 / 超原子価化合物 / 触媒反応 |
研究実績の概要 |
遷移金属錯体を触媒とするクロスカップリング反応は現代の合成化学には不可欠な技術であり、今日では医薬品や機能性材料の合成に幅広く応用されている。 これまでに触媒活性を向上させるための様々な研究が行われてきたが、近年では配位子L(主にホスフィン類)の構造的特性が及ぼす効果に注目が集まっている。クロスカップリング反応は、ドナー性が高く、立体的に嵩高いリン(ホスフィン)配位子によって活性化されることが知られている。このような観点から多くの研究が行われ、効率的な触媒系が構築されてきた。我々は、かさ高く、ドナー性が高いリン配位子に向けた新たなアプローチとして、超原子価結合の電子的・立体的性質を利用することを計画した。具体的には、(1) 電子的な観点では、三方両錐構造が持つアピカル結合が強く分極、すなわち電子豊富な状態にあることを利用し、(2) 立体的な観点では、5配位リン化合物そのものの嵩高さを利用する。(1) のコンセプトの実現のために、ホスファトラン型のリン化合物の合成を検討した。これまでに、トリス (2-ブロモベンジル) アミンをトリメタル化したのちに三塩化リンと反応させることでホスファトラン化合物の合成検討を種々行ってきたが、目的化合物の単離には到らなかった。現在は、架橋炭素鎖を1つずつ伸長した化合物について合成法を検討している。(2) のコンセプトのために、比較的単純な構造を持つ新たなホスホラニド(超原子価リンアニオン)型のテルフェニルジオール配位子を開発し、これを用いて配位子の前駆体となる数種類の5配位リン化合物の合成および単離に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
超原子価化合物の性質を利用して、ドナー性が高く嵩高い新規配位子を開発することが本研究の目的である。電子的な観点から計画したホスファトラン型配位子の合成については、当初の目的化合物に到達することが困難であると判断した。そこで、現在は分子骨格を変更した分子の合成を検討中である。一方、立体的な観点から計画した新たなホスホラニド型の配位子の前駆体の合成に成功した。この化合物はL1PRH (L1=三座配位子、R1, R2=アルキル、アリール)型の分子であり、市販の試薬から2段階で合成できる。現在までに、3種類の誘導体(1: R1=R2=Me; 2: R1=Me, R2=H; 3: R1=R2=H) の単離に成功した。このうち2と3はリン上に水素原子を持つため、遷移金属に対する配位子として機能することが期待できる。テルフェニルジオール型三座配位子L1が比較的単純な構造であることに加え、R1, R2として様々な置換基を導入することができることから、クロスカップリング反応に対して広く応用できると考えている。以上のように、ホスファトラン型分子の合成に関して、予定通り進行しているとは言い難い状況である。
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今後の研究の推進方策 |
ホスファトラン型配位子については、架橋炭素鎖を1つずつ伸長した化合物の合成を目指し、トリス(2-ブロモフェニルメチル)アミンと三塩化リンの反応を検討している。まずはこの配位子の合成を完了したい。テルフェニルジオール型三座配位子を持つホスホラン化合物については、収率と合成法の最適化が必要である。そして、金属錯体の配位子としてどのように機能するかを調査したい。これまでに報告されているホスホラニド (R4P-) 金属錯体の報告例は数例のみであり、その基本的な配位能についての調査は基礎研究的な点から重要である。具体的には金、パラジウム、白金などの後期遷移金属の錯体を合成し、配位子の電子供与能に関する知見を得たいと考えている。次に、ホスファトラン配位子とホスホラニド配位子のクロスカップリング反応における触媒活性を詳細に検討したいと考えている。
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