研究課題/領域番号 |
25410079
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
上口 賢 独立行政法人理化学研究所, 侯有機金属化学研究室, 専任研究員 (10321746)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 不均一系触媒反応 / 反応開発 / 無機材料 / モリブデンスルフィドクラスター / 超伝導シェブレル相 / ルイス酸 / ブレンステッド酸 / 二元機能触媒 |
研究実績の概要 |
金属クラスターは直接結合した複数の金属原子が協同的に働くことにより新しい反応を実現する触媒として期待されている。従来、主に研究されてきた、一酸化炭素や有機物を配位子とする分子性クラスターでは金属原子間の結合が弱いため協同効果の発現が難しい。一方、ハロゲンや硫黄を配位子とするクラスターではこれまで触媒としての利用例が極めて少ないが、金属骨格が熱に強く加熱条件下でも複数の金属原子が結合を維持しながら協同的に働く触媒として期待できる。本年度は硫黄配位子により多数のモリブデン正八面体金属骨格が連結され、かつ金属骨格のネットワークの間隙に銅などの金属カチオンが包蔵された非分子性クラスター(超伝導シェブレル相)について触媒反応探索を行った。その結果、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)の分解によるイソブテン合成反応が進行することを見いだした。クラスターを90日間大気中に保存後、水素気流下温度を変えて加熱活性化し、引き続き同じ温度で反応を行ったところ、触媒活性は100 ℃で現れ、175℃および400 ℃で極大となった。また、上記活性化では大気中保存により金属カチオンの周りにヒドロキソ(-OH)配位子が、また硫黄の欠損サイトにオキソ配位子(-O)が取り込まれたが、250 ℃前後でこれらの配位子が順次脱離した。MTBE分解反応が種々の固体酸触媒を用いて行われていることに照らし合わせると、175 ℃前後ではヒドロキソ配位子がブレンステッド酸点として働き、400 ℃前後ではオキソ配位子の脱離により現れた複数の配位不飽和なモリブデン原子がルイス酸点として働くことにより反応が進行したと考えられる。このようにシェブレル相はブレンステッド酸点およびルイス酸点という2種類の異なる触媒活性点を発現させる二元機能触媒として利用できる可能性を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では非分子性クラスターを用い、複数の金属原子の協同効果を発現させうる新しい活性化手法の確立とその協同効果を生かした新しい触媒反応の開発を目的としている。本年度は非分子性モリブデンスルフィドクラスターについて、MTBEの分解によるイソブテンの合成反応が進行することを新たに見いだし、またこの触媒反応ではルイス酸性を示す複数の配位不飽和なモリブデン原子に加え、金属カチオンに配位したブレンステッド酸性を示すヒドロキソ配位子も触媒活性点として働くことを見いだした。すなわち、上記クラスターを二元機能触媒として利用できる可能性を新たに見いだせており、本年度はおおむね順調に進展していると判定した。
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今後の研究の推進方策 |
硫黄やハロゲンを配位子とする各種非分子性クラスターを用い、これまでに見いだされている活性化に加え新しい活性化手法も取り入れることにより、複数の金属原子の協同効果が機能するような様々な触媒活性点の発現とそれを生かした新しい触媒反応の開発を行う。必要に応じシリカやアルミナ、活性炭などの担体へのクラスターの担持も行い、活性や選択性の向上も目指す。
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