研究課題/領域番号 |
25410084
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
幸本 重男 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90195686)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有機結晶構造 / 刺激応答性 / 蛍光 / ピリジニウム塩 / イミダゾリウム塩 |
研究実績の概要 |
平成26年度はアントラセン環を蛍光発光部位として分子中央に有しクランク型に折れ曲がったピリジニウム塩、イミダゾリウム誘導体、ピリドン誘導体を用いた刺激応答性有機結晶の結晶配列デザイン、発光の制御を中心に行った。これら一連の化合物は結晶性が良く、再結晶溶媒を取り込んだ溶媒和結晶を与えた。単結晶X線回折より溶媒分子の配列したチャンネル構造が形成されていることが判明した。結晶は摩砕することにより溶媒分子が脱離し、蛍光色が青色から緑色に長波長にシフトするメカノフルオロクロミズムを示した。また摩砕した粉末に溶媒蒸気を曝露することにより青色の蛍光を示し、摩砕、溶媒蒸気の曝露による蛍光色の変化は可逆的であり、かつ繰り返しが可能であることが判明した。メカノフルオロクロミズムを示す有機結晶はイミダゾリウム誘導体とスルホン酸の塩としても作成することができた。芳香族カルボン酸はイミダゾリウム誘導体と共結晶を形成したが、その摩砕による刺激応答発光性はスルホン酸塩とくらべ顕著ではなかった。この違いは塩と共結晶の結晶配列の違いによる。スルホン酸塩では層状構造が形成されており、摩砕による層構造の滑りが可能であり、これによりアントラセン環同士の相互作用が変化し蛍光の長波長化がなされたと考えられる。これに対して芳香族カルボン酸との共結晶ではカルボン酸が積層したチャンネル構造が形成されていて摩砕による結晶配列の変化が起こりづらいためと思われる。ピリドン誘導体ではピリドン環同士の双極子‐双極子相互作用により結晶配列が構築されているが、酸の添加によりピリジニウム塩へと変換でき、イオン間相互作用に基づいた結晶配列が構築された。このような相互作用の変換による結晶配列の制御は結晶工学的にも新しい手法であり、蛍光性有機結晶のデザインに役立てることが出来る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は折り畳み構造を有する芳香族フォルダマー構造を、水素結合等の分子間相互作用を利用して超分子的に形成し、結晶配列制御を行うことにより固体蛍光発光の制御や不斉要素の導入による誘起CDの発現を目指している。初年度ではコノ字型およびS字型構造を持つ芳香族ウレアジカルボン酸を基本構成単位として用い、ジピリジル誘導体との共結晶化により様々な折れ曲がった結晶配列をデザインすることが可能であることを示した。平成25度が水素結合を用いて折れ曲がったネットワーク構造を構築するのに対して、平成26年度の目標はカチオン‐π相互作用に基づいた折れ曲がり構造の構築、この構造に基づいた蛍光挙動の調査であった。この調査の過程で、中央に発光部位を持つクランク型に折れ曲がったピリジニウム塩、イミダゾリウム塩が摩砕による刺激応答性発光を示すことを見出した。有機結晶の刺激応答発光は現在、最も注目されている結晶化学の分野の研究課題のひとつであり、発光効率の良いかつ可逆的な系が求められている。しかしながら報告例は限られており、またシステマティックな研究もなされていない現状である。刺激応答発光性を持つ有機結晶のデザイン指針を示すことができればこの分野に大いに貢献できる。そこで平成26年度は、折れ曲がった刺激応答発光性を示す有機塩結晶についての研究を主に行った。一連の刺激応答発光性を示すピリジニウム塩、イミダゾリウム塩を作製することができ、単結晶X線構造解析により刺激応答発光性を発現しやすい結晶配列についての知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
刺激応答性蛍光発光材料はセンサー分子等への応用の観点から現在活発に研究が行われている分野である。刺激応答発光は安定な結晶配列が機械的刺激により変化し水素結合等によって安定化された準安定状態の結晶配列へと変化し、これにより発光部位間の相互作用が変化し蛍光色への変化へとして現れる。現在のところ報告例はまだ限られたものであるので、刺激応答発光性有機結晶のデザインのための指針を明確にすることは有意義である。一般に平面性分子は機械的刺激により配列のずれを生じやすいと考えられるので、この目的に適していると考えられるが、我々の系は折れ曲り分子である。中央の発光部位の両端に折れ曲がった形で双極子やイオン部位を導入し、これら相互作用部位同士の分子間相互作用を利用して発光部位の配列を制御する手法をとる。折れ曲がり分子と芳香族カルボン酸やスルホン酸と共結晶や塩を作成し刺激応答性を精査する。種々の芳香族カルボン酸やスルホン酸、特に分子サイズの大きいものを取り込むためには大きなサイズの内部空孔を構築する必要がある。このために相互作用部位のサイズを大きくした分子を合成し検討する。また、取り込む分子自体に蛍光性を持たせることにより、種々の蛍光色が出せるような蛍光色変調を行う。機械的刺激による結晶構造の変化、その後の溶媒蒸気の曝露や加熱による結晶構造の変化をXRDにより解析し、どの程度の結晶性が保たれているのかどうか調査し、効率の良い可逆的な刺激応答発光性有機結晶の探索に役立てる。
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