研究課題/領域番号 |
25410085
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小澤 健一 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (00282822)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有機-酸化物接合界面 / 電荷移動 / エネルギー準位接続 / キャリアダイナミクス / 双極子モーメント / 光電子分光 / X線吸収分光 / 4端子電気伝導測定 |
研究概要 |
本研究は,有機分子の双極子モーメントが有機-酸化物接合界面におけるキャリアの移動速度に及ぼす影響を評価し制御することを目的とする。中心金属原子団の種類により0~5 Debyeの永久双極子をもつフタロシアニン分子が酸化物表面に吸着した系を作成し,光吸収によりフタロシアニン分子のLUMO準位に励起した電子が基板表面へ移動するまでの時間(フェムト秒オーダー)をcore-hole clock分光法により検証する。 初年度は,チタン酸ストロンチウム表面でのフタロシアニン分子(中心原子団HとTi=O)の吸着状態と表面‐分子間のエネルギー準位接続を光電子分光とX線吸収分光により検証した。その結果,中心原子団の違い,すなわち永久双極子モーメントの大きさにかかわらず,HOMO準位はチタン酸ストロンチウムのバンドギャップの下端に,LUMO準位は伝導バンド内に位置することが明らかとなった。このことは,フタロシアニンの表面への吸着状態は中心原子団の種類に依存しないことを意味している。エネルギー接続の観点から見ると,フタロシアニンのLUMOに励起された電子はエネルギー障壁を超える事なしに基板酸化物表面へ移動できることから,移動速度が速いことが期待される。一方,フタロシアニンのHOMO準位に正孔が導入されると,基板表面への正孔移動は界面のポテンシャル障壁のために遅くなる,あるいは阻害されることが予想できる。 フタロシアニンの吸着により,チタン酸ストロンチウム表面の価電子バンドは下方にベンディングした。これは励起電子の電荷移動と異なり,フタロシアニンと酸化物表面原子の軌道混成に伴う電荷移動があることを意味する。超高真空下で電荷移動量を実測するための超高真空対応マイクロ4端子電気伝導装置を組み立て,動作試験を行ったので,今後は表面電気伝導測定からフタロシアニンから基板表面への電荷移動量を測定する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験計画では,4種類のフタロシアニンと2種類の酸化物における吸着状態とエネルギー準位接続を評価する予定であったが,実際には2種類のフタロシアニン(中心原子団H,Ti=O)と1種類の酸化物(チタン酸ストロンチウム)を組み合わせた吸着系の評価にとどまった。超高真空環境下でフタロシアニンを酸化物表面に吸着させる条件の確立と吸着量の査定に時間がかかったためである。また,フタロシアニンを吸着した後でチタン酸ストロンチウム表面を清浄化することが非常に困難であり,時間がかかることも一因であった。しかし,初年度の経験からフタロシアニン吸着と吸着量評価の方法が確立できたため,残り二種類のフタロシアニン(中心原子団V=O,Al-Cl)と酸化物(酸化亜鉛)については,二年目に行う予定である。 初年度に予定していたもう一つの課題である,超高真空対応マイクロ4端子電気伝導装置の立ち上げについては,設計・納入・組立までを計画通り行うことができた。さらに,シリコン基板を用いた表面伝導率の測定を行うことで動作確認をした。単結晶シリコンウエハ表面の抵抗率は,大気中と超高真空中で異なることを見出し,表面吸着分子の有無に敏感に抵抗率が変わることが分かった。これにより,有機-酸化物接合界面の抵抗率が精度よく測定できる見通しが立てられた。
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今後の研究の推進方策 |
二年目は,シンクロトロン放射光を用いたcore-hole clock分光により,フタロシアニンのLUMO準位に励起した電子の基板表面への移動速度を決定する実験を行う。まず,チタン酸ストロンチウム表面に中心原子団H(双極子モーメントゼロ)とTi=O(3.7 Debye)のフタロシアニンを吸着させた系の測定を行い,移動速度への双極子モーメントの効果の有無を検証する。これと並行して,初年度で吸着状態とエネルギー準位接続の評価実験ができなかった吸着系について,光電子分光とX線吸収分光測定を行う。これらの実験は,シンクロトロン放射光を用いて行う。 一方,放射光を用いた実験の合間に,マイクロ4端子法による吸着系の電気伝導測定を行い,フタロシアニンから基板表面への電荷移動量を決定する。 二年目の終了時点で,吸着有機分子の双極子モーメントが電荷移動速度に及ぼす影響を定量的に評価できるデータが得られるので,ここまでの成果をまとめて論文として発表する。
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