カウンターアニオンとしてヘキサフルオロホスフェートを、結晶溶媒としてエタノール等の各種アルキルアルコール、酢酸エチルあるいはアセトンを含むDIP(ジヨード(ピラジノ)テトラチアフルバレン)のカチオンラジカル塩の単結晶が、電圧印加によって六角柱状の細長い単結晶の一部分がオレンジ色に変色する現象について、その変色部分の構造と成分を確定するための解析を行った。本研究で用いた単結晶は、有機伝導体のカチオンラジカル塩の単結晶としては長さ方向で1mm以上のサイズがあり比較的大きな部類に属しているが、今回ターゲットとした変色部分の大きさは平均して0.1mm未満と微小サイズであったため、本研究費により修理を行った高感度のCCD検出器を用いてもX線単結晶構造解析を行うことは困難であった。そこで化学的な分析手法による解析を行うこととし、各種有機溶媒に対する溶解性を調べたところ、オレンジ色の変色部分の結晶は二硫化炭素などの比較的極性の小さな有機溶媒に容易に溶解させることが可能であったのに対し、カチオンラジカル塩のまま酸化状態が変化していないと予想された黒茶色の部分はこれらの有機溶媒に溶解せず、二種類の結晶部位を選択的に溶解・分離することが可能であることがわかった。そこで、変色部位を選択的に溶解させた溶液について質量分析、GPCおよびTLCによる分析を行った結果、予想していた通り純度の高い中性ドナー分子DIPであることを確認した。
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