研究課題/領域番号 |
25410092
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
植田 一正 静岡大学, 工学研究科, 教授 (10275290)
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研究分担者 |
古門 聡士 静岡大学, 工学研究科, 准教授 (50377719)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノ構造体 / 配向制御 / 多孔質有機結晶 |
研究実績の概要 |
本研究で用いる扇型分子に必要な性質として、「分子の長軸方向で相互作用できる置換基を有すること」、「その置換基の相互作用は方向性を持って作用すること」および「生成する空孔の形状は内包物の種類や数によって変化しないこと」の3つがある。従って、これらの性質を満たす置換基には多点相互作用が必要となる。本年度の研究では、昨年度に引き続き、2つのメトキシカルボキシル基の置換した扇型分子の分子配列に及ぼすアルキルチオ基の効果の評価および固体の光物性の解明と、さらに、ジカルボン酸誘導体より溶解度の向上が期待されるモノカルボン酸誘導体の前駆体である1つのメトキシカルボニル基の置換した扇型分子の合成法の確立を行った。 2つのメトキシカルボキシル基の置換した扇型分子の有するアルキルチオ基として、n-ブチルチオ、sec-ブチルチオ、i-ブチルチオ基の3種類を導入した。X線単結晶構造解析により明らかとなった3種類の分子の分子配列を、これまでに合成した分子と比較した。n-ブチルチオ基を導入したものの分子配列はn-プロピルチオ基を導入したものと類似しており、sec-ブチルチオ基を導入したものの分子配列はi-プロピルチオ基およびエチルチオ基を導入したものと類似していた。分子配列の比較より、アルキルチオ基の硫黄原子近傍の炭素原子の結合様式に分子配列は支配されることが明らかとなった。 一方、1つのメトキシカルボニル基を有する扇型分子の合成に2つのメトキシカルボニル基を有する扇型分子の合成法を適用したところ、副生成物が複数生成し、低収率で杢テク物が得られた。そこで、反応溶媒の検討を行ったところ、高収率で合成可能な溶媒の組み合わせを見つけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2つのメトキシカルボニル基置換扇型分子に種々のアルキルチオ基を導入し、それらの分子配列の比較により、隣接分子間の分子配列とアルキルチオ基に関する知見を得た。アルキルチオ基の違いにより、積層する隣接分子間の双極子モーメントの角度が0°、40°あるいは180°になることがわかった。さらに、アルキル鎖が3炭素以上になると、隣接分子間の積層様式は、アルキルチオ基の硫黄原子周りの炭素元素の結合様式に支配されることがわかった。このことは、望ましい積層様式を保持したまま、アルキル鎖の伸長による溶解度の向上が可能であることを意味し、分子骨格から空孔形状を予測することを可能とする。 また、それぞれの分子の固相での反射スペクトルの測定より、n-ブチルチオ基とsec-ブチルチオ基を導入した分子の結晶は、n-プロピルチオ基とi-プロピルチオ基を導入した分子の結晶と同様、紫外―可視領域の光をほとんどを吸収することがわかった。このことは、紫外―可視領域の光吸収の起源が、カラム構造を作る積層分子間の相互作用にあり、カラム間の相互作用にはないことを意味している。 さらに、1つのメトキシカルボニル基置換扇型分子の高収率合成法の確立を行った結果、1回の反応で1 g程度合成できるまでに至った。したがって、様々なカルボン酸誘導体の結晶作製条件を検討するのに十分な試料の供給が可能となった。各種分光スペクトルに適した粉末試料は黒色をしており、その分子配列は、ビスメトキシカルボニル基置換扇型分子のものと類似して いると予測される。 これらの結果より、種々のメチルエステル体の分子配列の制御を通して、多孔質結晶作製のために重要なアルキルチオ基の種類と分子配列の相関を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度では、平成25年度に合成したものより大きなアルキルチオ基を有するビスメトキシカルボニル基置換誘導体を合成し、それらのアルキルチオ基の大きさと分子配列との相関および結晶の光物性をを明らかにした。これらの結果より、扇型分子の結晶性と積層様式の制御を可能とする知見を得た。さらに、相当するアルキルチオ基を導入したモノメトキシカルボニル基置換誘導体の高収率合成法の確立に成功した。これらの誘導体の結晶構造は不明ではあるものの、相当するビスメトキシカルボニル基置換誘導体と類似の色調の固体試料を与えたことより積層構造の類似性が示唆された。平成27年度では、得られたモノメトキシカルボニル基置換誘導体およびそれらから合成されるモノカルボン酸誘導体の結晶構造を明らかにすることにより、カルボキシル基由来の多点相互作用と空孔形状の評価を行う。
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