研究課題/領域番号 |
25410094
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
中田 聡 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50217741)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 非線形現象 / 振動 / 分岐 / 同調 / 自己駆動 / 履歴 / 界面張力差 / 非平衡系 |
研究実績の概要 |
当該年度の研究実績は次のとおりである。 (1) 分子構造に依存した特徴的な自律運動の創出: 表面圧πー分子占有面積A曲線に極小と極大を持つ両親媒性物質であるN-stearyl-p-nitroaniline (C18ANA)単分子膜上に樟脳円板を浮かべると、π-A曲線に依存した運動様相を示し、特に極小値の濃度付近で振動運動が生じることを見い出した。当該年度において、C18ANAの温度依存性に関する分子間相互作用をFTIRにより評価した。またBAM測定により単分子膜の分散状態を評価した。これにより温度により変化したπ-A曲線と運動様相の関係を明らかにした。 (2) アゾ系単分子膜による自己駆動系の光制御: アゾ系単分子膜では紫外/可視光照射によりシストランス光異性化が生じ、その結果表面圧が変化する。この性質を利用して、樟脳粒子の光制御をおこなった。その結果、停止、間欠、連続の3つの運動モードを光制御することに成功した。 (3) SDS-樟脳混合によるマランゴニ流の再生の分子論的解明: 一般に界面活性剤は表面張力を低下させるために、マランゴニ流を抑制する。ところが樟脳系で発生するマランゴニ流では、SDS濃度に依存して抑制されたマランゴニ流が再生される現象を見出した。その原因について、NMRと質量分析を行って分子論的に解明した。その結果、SDSミセルに樟脳分子が会合体を形成することが明らかになった。これらの結果から分子構造を元に自己駆動系をデザインすることができると示唆される。 (4) 化学振動反応と同期して水面を往復運動する自励振動ゲルの開発: 化学振動反応と同期して膨潤収縮する自励振動ゲルを等方的な場である水面に浮かべると、化学進行波の出現による異方性が往復運動を導く。この系は、化学反応と機械的な運動が双方向フィードバックした系として重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生物の変換機構に学ぶ系として、膜・界面から構成され、界面張力差を駆動力とした自律運動系を取り扱う。そして、反応場の構成物質、空間的異方性、及び反応拡散の速度バランスをパラメータとして、系に非線形性(振動、分岐、履歴等)を導入することにより、運動の様相が時空間発展するモデル実験系を構築するとともに、その機構を解明することを目的とする。特に膜物質間に働く分子間相互作用と、ミクロとマクロを結ぶ階層性のダイナミクスと関連させて解明する。 分子レベルからの研究については、非線形性の高い膜から光異性化する膜まで複数の両親媒性分子を合成し、その物性と駆動力の指標である表面圧測定から、運動制御するレベルにまで達成している。また自励振動ゲル系へと発展させることができた。、また柔軟性を高めるために新規系として往復運動する液滴系を見出した。加えて、NMR、BAM,IR等による分光学的な測定から自己駆動系の分子レベルからの解明を行うことに成功した。 またこれまで比較的定性的であった数理モデルを解消するために、より物理化学的なパラメータ、つまり辞典を考慮したパラメータを評価することに到達した。これにより今後定量的な議論ができるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後については、まず自励振動ゲル系については、機会エネルギーと化学エネルギーの双方向フィードバックが反映された運動系を構築する。具体的には複数個の自励振動ゲルを結合した逆相系を構築したい。また樟脳系では、樟脳円板と円環水路長を変えると、2種類の集団運動モードを既に見出したが、数密度から運動モードを縮約して普遍的に解明することを推進したい。現在行っている数密度、数、円環水路の周長の問題を解明して、普遍的な原理解明を行いたい。また対称系と非対称系の組み合わせや、柔軟な場の変形による運動へのフィードバックなど、より柔軟な自己駆動系の構築を行う予定である。また液滴系で見出した、場の境界を使う場合と使わない場合の往復運動のメカニズムを解明する。ここでは液滴の溶解と吸着のバランスが自律的な秩序を形成する仕組みを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末での実験の実施による試薬購入、使用機器のメンテナンス、及び使用機器の使用状況により、若干の遅れが生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
年度末にほぼ対応したので問題ない。
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