研究課題/領域番号 |
25410097
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
松田 真生 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (80376649)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フタロシアニン / 電荷不均化 / 磁気抵抗 / 電荷移動錯体 / 導電体 |
研究概要 |
巨大磁気抵抗効果を発現する軸配位鉄フタロシアニン(Fe(Pc)L2, L: 軸配位子)からなる電荷移動錯体の基底状態は電荷不均化にあることが近年の実験と理論研究から明らかになった。本研究では軸配位鉄フタロシアニン系分子ユニットに非対称性を導入することで、分子間相互作用に不均化を導入し、基底状態の電荷不均化と分子間相互作用の不均化から誘電性を発現させることを目的としている。 25年度(初年度)は、軸配位子の非対称化を目指した。これまでにCN、Cl、Brを軸配位子として導入した鉄フタロシアニンユニットの構築に成功しているが、いずれも同種の配位子をもったもの、すなわち、ジシアノ、ジクロロ、ジブロモ鉄フタロシアニンユニットであった。軸配位子により分子間相互作用の大きさに変調が見られることが分かっており、異種の軸配位子を導入したFe(Pc)(CN)Cl、Fe(Pc)(CN)Br、Fe(Pc)BrClの三種の分子ユニットを構築することで、分子間相互作用の不均化を期待した。 合成方法を従来とはことなるものとすることで、Fe(Pc)(CN)Cl、Fe(Pc)(CN)Br、Fe(Pc)BrClのすべての分子ユニットを構成成分とし対カチオンをテトラフェニルホスホニウム(TPP)とする電荷移動錯体の構築に成功した。 すべての電荷移動錯体の結晶構造解析を行ったところ、いずれもTPP[Fe(Pc)LL']2であり、これはTPP[Fe(Pc)L2]2と同形であった。分子間相互作用の見積もりのため、重なり積分を計算したところ異種軸配位子体は同種軸配位子体の中間の値を示していることが分かった。 TPP[Fe(Pc)(CN)Cl]2については極低温で誘電緩和の兆候も見られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環状配位子錯体への軸配位子導入において、異種配位子の導入は従来報告がなかった。配位子場の強いものが優先的に配位することが容易に起こるためである。 本研究目的の達成には異種軸配位子導入は重要な検証すべきアプローチの一つであり、この課題を合成スキームの工夫により達成できたのは意義が大きい。 また、一種ではあるが誘電性についても興味深い兆候が見られた点も、本研究が当初計画に従い順調に進展していることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
誘電性について、その再現性の確認、発現機構の解明のためのより詳細な実験を行う必要がある。 一方、環状配位子であるフタロシア任への非対称性導入にも今後はより取り組む。軸配位子以上に明確な分子間相互作用の変調を期待できる一方で、その合成は困難を極めることが予想されるが、すでに予備実験により複数のアプローチからフタロシアニン間の非対称化に取り組んでいる。 26年度、27年度中に非対称フタロシアニンの結晶化、および、その電荷移動錯体の結晶化と電気特性研究の道筋を立てる。
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次年度の研究費の使用計画 |
得られた試料についての予備実験の結果を考慮し、誘電測定のためのLCRメータの購入を検討していた。 軸非対称系電荷移動錯体の構築は困難であり、25年度の半ばを過ぎてから達成し、その誘電データの解釈を行なうことに時間を要したことで適切な機器を見積もることが難しかった。 曖昧な状況で本研究試料の測定にとって結果的に不適切な計測器を購入するよりは、時間をかけて適切な計測器を選定し次年度に購入した方が良いと判断したため次年度使用額が発生した。 誘電測定のための計測器の購入を計画している。
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