研究実績の概要 |
巨大磁気抵抗効果を発現する軸配位鉄フタロシアニン(Fe(Pc)L2, L:軸配位子)からなる電荷移動錯体の基底状態が電荷不均化にあることを利用し、本研究では軸配位鉄フタロシアニン系分子ユニットに非対称性を導入することで、分子間相互作用に不均化を導入し、基底状態の電荷不均化と分子間相互作用の不均化から誘電性を発現させることを目的としている。 25年度に、CN, Cl, Brの三種類の軸配位子を用いて、Fe(Pc)(CN)Cl, Fe(Pc)(CN)Br, Fe(Pc)ClBrの三種類の非対称分子ユニットの作製に成功し、誘電特性の評価も一部行っていたが、期待する程明確なものは観測されなかった。 そこで、26年度はフタロシアニンへの非対称性の導入を行なうにあたり、環状配位子の変化による分子間相互作用の変調の評価のため、類似配位子であるテトラベンゾポルフィリン(tbp)を用いた電荷移動錯体を作製した。従来研究と同様に、テトラフェニルホスホニウム(TPP)をカウンターカチオンとして用いることで、TPP[Fe(tbp)(CN)2]2なる電荷移動錯体を得ることに成功し、これが予想通りTPP[Fe(Pc)(CN)2]2と同形であることを確認した。 ただし、分子間相互作用に注目すると、Pc錯体に比べてtbp錯体では重なり積分が一割以上減少している。これはメソ位が窒素原子からメチン基に置き換わったことにより、Pcでは隣接分子間で斥力が働いていた部分がtbpで引力が働いていることによる。すなわち、環状配位子への非対称性の導入が、本研究の目的に適した分子設計と成りうることを強く示唆する結果を得られたと言える。
|