研究実績の概要 |
巨大磁気抵抗効果を発現する軸配位鉄フタロシアニン(Fe(Pc)L2, L:軸配位子)からなる電荷移動錯体の基底状態が電荷不均化にあることを利用し、軸配位鉄フタロシアニン系ユニットに非対称性を導入することで分子間相互作用に不均化を導入し、基底状態の電荷不均化と分子間相互作用の不均化から誘電性を発現させることを目的とした分子設計を行なった。 Fe(Pc)(CN)Cl、Fe(Pc)(CN)Br、Fe(Pc)BrClの三種類の分子ユニットとその電荷移動錯体の作製に成功していたが、後者2つはその再現性が低く、これまでに得られていた電子物性データが本質的なものであるかに疑問があった。そこでFe(Pc)(CN)Br、Fe(Pc)BrClからなる電荷移動錯体を再現よく得る手順を確立しその電子物性を再検証したところ、得られた全ての電荷移動錯体は同形であるにも関わらず、Fe(Pc)(CN)Clからなる電荷移動錯体でのみ誘電緩和を観測することができことが確認された。三つの試料の分子配列に有意な相違は確認されないが、Fe(Pc)(CN)Clを構成成分とする電荷移動錯体においては局所的に分子配列が二量化している部分が多く存在していると考えられる。 一方、軸配位子への非対称性では分子間相互作用への十分な不均化を誘起することは難しいと考え、Pcへの分子修飾も試みた。その一環として、Pcと分子構造が酷似したテトラベンゾポルフィリン(tbp)を構成成分とする電荷移動錯体を昨年度までに作製し、Pcからなる電荷移動錯体と同形であることを確認していたが、その電気・磁気特性、および、磁気抵抗特性を検証したところ、分子構造のわずかな相違に起因して電気・磁気特性も磁気抵抗特性も大きな変調を見せることが分かった。これはPcへの非対称な分子修飾が本研究目的の達成に有効な手段となり得ることを示唆するもので、フッ素、塩素などをPcの4つの外周ベンゼン環へ非対称に導入した錯体の合成を試みたが電荷移動錯体を得るまでは至らなかった。
|