研究概要 |
積層化した色素分子はπ相互作用により、分子間での電荷およびエネルギーの移動が可能であり、その性質を利用して有機トランジスタなどの電子デバイスへの応用が期待されている。生体分子であるDNAは高い自己組織化能と分子選択性をもつことから色素分子を集積させるテンプレートに適した高分子材料である。本研究では高い蛍光特性と熱安定性をもつ色素であるジケトピロロピロールに核酸塩基レセプターであるサイクレン亜鉛錯体を連結した分子(DPP)とDNAとによる色素分子組織体の形成について検討した。 その結果、DPPは500-600 nmの領域にジケトピロロピロールに起因する吸収帯を持ち、この吸収帯はdT20の添加に伴い吸光度が減少した。このような淡色効果は鎖長の異なる他のDNA (dT30, dT40)でも観察された。またDPPは560 nm付近に極大を持つ蛍光を示し、dT20を添加するにつれて蛍光強度が減少した。従って、淡色効果および蛍光消光よりDPPのZn-サイクレン部位はDNAチミンと選択的に結合し、ジケトピロロピロール部位が互いに会合していることが示唆された。DPPとDNA (dT10, dT20, dT30, dT40, dT50)の混合溶液のCDスペクトルでは500-600 nmのDPPの吸収帯領域に誘起CDシグナルが観測された。アキラルであるDPPは誘起CDシグナルを示さないことから、DNAとの混合による誘起CDシグナルは会合によるDPP間の励起子結合に起因していると考えられる。ゲルろ過クロマトグラフィーではチミンの吸収波長である260 nmとDPP由来の520 nmにおいて同じ溶出時間にピークが現れ、DNA鎖長に対応して溶出時間が変化した。このことからDNAの鎖長に応じた長さの組織体が形成されることが示唆された。
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