ナノレベルでの分子の捕捉,放出の制御は,エネルギー・環境・医療など幅広い分野で求められている重要な技術である。本研究では,外部刺激により弁の回転を制御する分子マシンである分子バルブの開発を目的とした。分子バルブはクラウンエーテルの開口部分で分子を吸着させ,光照射により弁を一方向に回転させることにより,吸着した分子を一方向に移動させることができると考えられる。分子バルブをカーボンナノホーンやメソポーラスシリカなどの超分子構造体に連結し,薬剤分子の捕捉,放出を制御する新規ドラッグデリバリーシステムへの応用を目指した。 分子バルブは弁の部分が一方向に回転することが重要である。これまでの研究において,分子バルブを合成し光照射による異性化を明らかにしたが,回転における不安定中間体がNMRでは確認できず,一方向の回転機構を明らかにすることができなかった。そこでNMRに代わる方法として蛍光相関分光法を用いることを計画し,蛍光色素Cy5-COTを合成した。本年度の研究においては,蛍光色素Cy5-COTを連結させるための置換基を導入した新規分子バルブの合成を目指した。その結果,分子バルブの合成中間体である芳香族環状ケトンの合成に成功したが,新規分子バルブの合成には至らなかった。一方,光学活性な分子バルブの合成中間体として有用な芳香族アルコール類の光学分割と絶対配置決定に,本研究室で開発した3-メントキシビフェニルカルボン酸が有効であることを見出した。
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