研究課題/領域番号 |
25410102
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
永田 央 名城大学, 理工学部, 教授 (40231485)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 人工光合成 / キノン / 導電性高分子 / 酸素発生 |
研究実績の概要 |
電子伝達膜を用いた電気化学反応について検討し、以下の成果を得た。 (1) 前年度に作成したアントラキノン誘導体を用いた高分子について、FTO基盤上のキャスト膜、およびガラス基盤上で作成した自立型膜を作成し、電気化学反応による電荷蓄積や、色素を付着させた系による光化学的電荷蓄積について試みた。しかしながら、電解に伴う機械的特性の変化による膜の変形が解決できず、有用な成果を得ることはできなかった。 (2) 一方、キノン誘導体を用いた別のアプローチとして、カーボンペーパーとイオン交換膜を隔膜として用い、キノンをレドックス活物質として用いたフローセル型の電気化学装置を組み立て、電荷蓄積を試みた。当初はやはりカーボンペーパー・イオン交換膜の機械的強度に困難があったが、高分子バインダーを融着することで解決できた。電子供与体として臭化ナトリウム、アスコルビン酸などを用いて、レドックスフロー電池としての動作が確認できた。 (3) カーボンペーパーを電極とする系の有用性にさらに着目し、水の光分解反応とレドックスフロー電池を組み合わせることを意図して、酸素発生触媒のカーボンペーパーへの電着について検討した。2価のリン酸コバルト水溶液中でカーボンペーパーを陽極として電解酸化を行ったが、コバルト触媒の電着は成功しなかった。しかしながら、導電性高分子をバインダーとして用いたところ、コバルト触媒の電着が確認され、酸素発生の加速も観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、光活性物質を膜内または膜表面に導入して、光化学反応を用いて電子伝達膜内に電荷を蓄積する計画であった。この計画については、キノン高分子膜の特性を十分に改善できず、計画通りに進行したとは言えない。 一方、平行して進めていたカーボンペーパーを使った電気化学系について、電気化学を用いた電荷蓄積、およびレドックスフロー電池としての動作確認ができた。この場合、キノンは高分子膜としてではなく、溶液系のレドックス活物質として利用している。 カーボンペーパーの系については、水の酸化反応触媒の電着についても一定の成果を得た。このことから、電荷蓄積でなく化学反応への展開についても見通しを得ることができた。この展開は、本来次年度に予定していたものであり、計画を越えた進展があったと言える。 全体を平均すれば、おおむね計画通りに進展していると評価できる。本来は、当初の計画について発見された問題点について、さらに深く追求する努力をすべきところであるが、現状では研究室の構成人員が少なく、現有の人材が高分子合成よりは化学反応系の構築と評価の方により適しているため、平行テーマの方を伸ばすことが研究全体の進展により寄与すると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度(最終年度)は、光化学反応による酸化還元反応の実現を試みる。「達成度」の項で述べた研究室の現状を鑑みて、カーボンペーパーとキノン活物質を用いた反応系について研究を推進することが現実的であると考える。具体的には、以下のような方策となる。 (1) キノンを活物質とするレドックスフロー電池について、蓄電性能・放電性能の定量化を行う。また、光照射によって酸化還元反応が推進されるかどうかを確かめる。まず、キノン自体の吸収帯の照射による光反応について評価する。その後、色素を共存させた系について評価し、結果を比較する。色素は、キノン溶液に溶解させるか、またはカーボンペーパー電極上に付着させるものとする。 (2) (1)とは別に、カーボンペーパー電極と導電性高分子の複合電極上に電着させたコバルト触媒を用いて、水の光化学的酸化反応を試みる。まず、電気分解による酸素発生の装置を組み立て、そこに光照射を行うことで酸素発生の速度や過電圧がどのように変化するかを評価する。カーボンペーパーと導電性高分子のみでは光励起による加速は期待できないため、色素を共存させた系も作成して評価し、結果を比較する。色素はコバルト触媒の近傍に配置することが必要であるため、コバルト触媒との結合様式についても検討する。 (3) (1)(2)を組み合わせた系として、レドックスフロー電池の対極において水を酸化する系の組立を行う。(1)のフローセルの対極部分に(2)の電極を用いれば、原理的には直ちに実現することができる。色素の組み合わせや光の照射方法を変化させて、電気化学反応の効率を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、年度後半に単価の高い試薬を比較的頻繁に使用する見込みがあったことと、新しい測定装置の組立についてさまざまな試行錯誤を行っていたため、ある程度の余裕を見た執行計画を立てていた。一部の実験や装置について、計画したが実行に至らなかったものが一部あり、その分が繰越金額として残った。
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次年度使用額の使用計画 |
上記で実行に至らなかった実験や装置の組み立てを実行するための消耗品費として使用する。
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