MAGIQ乳化は、超臨界水と炭化水素の均一溶液を急冷し、相分離によって炭化水素を極微細な油滴として析出させるという、ボトムアップの原理に基づく全く新しい乳化手法である。平成26年度までにドデカンを10秒以内という短時間で水にナノ乳化できること、用いる乳化剤のHLBが小さいほど小さな油滴が生成することを明らかにした。平成27年度、新たに動的表面張力測定を行い、乳化剤の水/ドデカン界面への吸着速度が速いほど、生成する油滴のサイズが小さくなることを見出した。油と水の均一溶液を急冷して相分離を誘起した際にスピノーダル分解によって1次油滴が生成した後、1)1次油滴の合一による油滴の成長、2)表面へ吸着した界面活性剤分子による油滴の安定化、の2つのプロセスが同時進行してナノ油滴が生成されるためだと考えられる。 平成26年度、ヘキサデカンのナノエマルションをヘキサデカンの融点(18℃)以下で保存した際に、ヘキサデカンが水中で異方性を持って結晶成長するという新奇な現象を見出した。平成27年度は、異方性結晶成長の分子メカニズムの解明を目指して、フォトンファクトリーにてX線回折実験を実施した。炭化水素の結晶化過程では、分子の長軸周りの回転の自由度が凍結していない回転相と呼ばれる準安定相が過渡的に現れることが知られている。通常、回転相の寿命は数分程度であるが、ナノエマルション化したヘキサデカンでは、回転相が1か月以上にわたって安定に存在していることがわかった。ナノサイズの油滴では、界面効果による結晶成長の阻害が極めて顕著になるものと推察される。 これらの基礎的研究と並行して、産業界への技術の普及を目的に、民間企業と共同でMAGIQ装置の市販に向けた共同開発を行った。高温・高圧機器に関する特別な専門知識がなくても超臨界水を安全に取り扱える装置の開発を完了し、販売を開始した。
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