研究課題/領域番号 |
25410105
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
新井 則義 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80282721)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有機合成化学 / 光反応 / 不斉合成 / 分子触媒 / 立体選択的合成 |
研究実績の概要 |
平成26年度の研究においては,平成25年度の研究で確立した合成ルートに基づき光学活性分子光触媒(第一世代)の継続的合成を推進すると同時に,本光学活性分子光触媒を用いたエナンチオ選択的環状骨格構築反応の初期検討を行った。 今回新たに合成した光学活性分子光触媒の能力を評価するうえにおいては,報告例のある反応系に対して本触媒を適用し,結果を比較することが好適と考え,Bachらによるキノロン誘導体の分子内[2+2]付加環化反応に着目した[Bach, T. et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 6640.]。筆者らが合成した光学活性分子光触媒の光増感部位はBachらが用いているものと同一であり,同様な光触媒作用により反応が進行することが期待されると同時に,そこでのエナンチオ選択性を比較することで,筆者らの触媒の反応基質認識能がどの程度であるかを評価できることがその理由である。 そこで実際に,当該論文中でBachらが用いているのと同一の反応基質を合成し,彼らの条件に倣い反応を行ったところ,予想される2種類の化合物(straight型,cross型)が合わせて70%の収率で生成し,光学純度はそれぞれ3% eeと1% eeであった。期待に反しエナンチオ選択性が非常に低い結果となったが,これは,筆者らの分子光触媒では,分子認識部位と光増感部位との空間がやや広く,当初の見積もり以上にその空間での反応が進行してしまったことに起因するものと考えられる。この結果を受け,分子光触媒の構造を分子認識部位と光増感部位との空間を狭めるように改良を加え,その合成と,それを用いた光反応に関し,最終年度で検討することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の開始時点におけるおおまかなロードマップは以下のとおりであった。①【光学活性分子光触媒の合成】平成25年度において光学活性分子光触媒の合成ルートを確立する。②【典型的光反応におけるエナンチオ選択性発現の評価】平成26年度以降,前年度までに合成した光学活性分子光触媒を用いて典型的な反応をいくつか行い,触媒のエナンチオ識別能力を評価する。③【光学活性分子光触媒のブラッシュアップ】検討した反応とエナンチオ選択性の相関を解析することで,選択性向上に適した構造的特徴を推測し,これを反映した第二世代分子光触媒の合成とその触媒を用いた反応検討を行う。平成25年度の研究において①は完了し,さらに平成26年度の研究において②について初期評価は完了した。現段階では期待したとおりのエナンチオ選択性を実現するには至っていないが,改良を加えるべき点と,今後の道筋についてのフィードバックは確固たるものが得られたと考えている。これらを鑑みると,全体を俯瞰した場合の達成度は60%程度であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
【第二世代光学活性分子光触媒の合成】 第一世代光学活性分子光触媒を用いたキノロン誘導体の分子内[2+2]付加環化反応では,期待したようなエナンチオ選択性の発現は認められなかった。これは,分子認識部位と光増感部位との間の,当初反応基質が入り込まないであろうと予想していたわずかな空間で,実際にはかなり反応が進行してしまったことに原因があると考えられる。そこで,シクロペンタジエンと無水マレイン酸のDiels-Alder反応と,それに引き続く分子内ハロラクタム化を利用して,この問題を解消する剛直なかご状構造をした第二世代光学活性分子光触媒を短工程で合成する。大部分が既知反応の組み合わせで対応可能と考えられるため,本年度第一四半期~上半期には合成を完了する計画である。 【第二世代光学活性分子光触媒のエナンチオ選択性発現の評価】 上述のよう合成法を確立した第二世代光学活性分子光触媒を用いて,平成26年度の研究で実施した第一世代触媒と同様な評価系により,不斉誘起のレベルについて詳細な検討を行う。この際,光触媒の仲立ちを経由しないアキラルな反応を抑止するため,光反応の基質であるキノロン誘導体を直接光励起することなく,光学活性分子光触媒のみを選択的に励起する必要がある。そのためには,光学活性分子光触媒が特異的に吸収する波長(365 nm)の光のみを照射しなければならないが,同波長のみでの照射が可能な光源を本研究助成金平成25年分の設備費にて購入済みであるので,この装置を活用することで問題なく研究を遂行することが可能である。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬,有機溶媒,ガラス器具等の消耗品の購入が,当初の見込みより少なくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
試薬,有機溶媒,ガラス器具,分離分析用クロマト用品等の購入に充当する。
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