研究課題/領域番号 |
25410109
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
星 隆 新潟大学, 自然科学系, 助教 (20303175)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | パラジウム触媒 / 鈴木-宮浦反応 / パラジウム触媒 / ホスフィン配位子 / 触媒活性化配位子 |
研究概要 |
研究代表者はこれまでに、ジt-ブチル(ペンタアリールルテノセニル)ホスフィン配位子およびジシクロヘキシル類縁体の5つのアリール基が3つのフェニル基および1つのビフェニリレン基である場合に、パラジウムに配位することで鈴木-宮浦反応において極めて高い触媒活性を誘起することを明らかにして来た。研究代表者ら、これら機能性配位子をR-PhosおよびCyR-Phosと命名している。今年度は、高い触媒活性を誘起するCyR-Phosの構造的特徴を明らかにする目的で、下部のCp環に置換したアリール基が異なる一連のCyR-Phos類縁体として、1)3つのフェニル基を全てかさ高い3,5-Xyl基に置換したXyl-CyR-Phos、2)4位のフェニル基を電子吸引性C6F5基に置換した5-F-CyR-Phos、3)および電子供与性4-Anisyl基に置換した5-MeO-CyR-Phos、4)π配位性ビフェニレンを2つのフェニル基に置換したCyY-Phosを開発し、立体的および電子的に不活性な鈴木-宮浦反応において互いの触媒活性化機能の比較を行った。その結果、一部の例外を除いていずれも低触媒量(0.025 mol%)で反応が定量的かつ速やかに進行し、下部のCp環に置換したアリール基の性質は配位子の触媒活性化能に大きな影響を与えないことが明らかになった。さらに、ペンタフェニルルテノセニル基が置換したCyY-Phosは、非常にかさ高い2,6-ジイソプロピルクロロベンゼンを基質に用いる反応において、CyR-Phosを用いた場合に大量に副生するボロン酸由来のホモカップリングの生成を抑制し望むクロスカップリング反応の収率を大幅に向上することも明らかになった。一方、ペンタアリールルテノセニル基の5つのアリール基を全て水素またはメチル基に置換すると触媒活性が劇的に低下した。この結果から、5つのアリール基のうち少なくとも1つは触媒の活性化に不可欠な部分構造であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、適切な配位子を使用することでクロスカップリング反応に用いるパラジウム錯体触媒の活性、安定性、そして基質一般性が顕著に向上することが明らかになり、新規配位子の開発に基づく高性能パラジウム触媒の創製とクロスカップリング反応への応用が盛んに研究されるようになった。研究代表者も、最近、π配位可能なビフェニレン基を有する新規なペンタアリールルテノセニルホスフィン配位子の開発と鈴木-宮浦反応における優れた触媒活性化機能を報告している。しかし、配位子構造と触媒活性化機能との詳細な相関関係については明らかではなく本研究における重要な課題の一つと位置づけている。 昨年度は配位子に含まれるいくつかの部分構造の中からルテノセニル基に注目し、その構造と触媒活性化機能との相関関係を明らかにする目的でアリール基の立体的や電子的性質が異なる種々の類縁体および下部のシクロペンタジエニル基の5つのアリール基が全て水素またはメチル基に置換されたCp環およびCp*環を持つ類縁体を開発し、鈴木-宮浦反応における触媒活性を比較した。その結果、アリール基の立体的性質も電子的性質も配位子の触媒活性化機能に大きな摂動を与えていないことが明らかになった反面、アリール基の置換自体は極めて重要で全て除去されたCp環およびCp*環を持つ類縁体を配位子に用いると触媒の安定性が顕著に低下し速やかに失活することが明らかになった。以上の様に、部分的ではあるが配位の重要な部分構造に関して触媒活性化機能の相関を明らかに出来たことから研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、以下の2点を中心に研究を展開する予定である。 1つは、研究代表者が最近開発した新規なペンタアリールルテノセニルホスフィン配位子の構造と触媒活性化機能との相関関係の解明を昨年に続いて継続する。これまでの研究で、配位子の重要な部分構造であるルテノセニル基と触媒活性化機能との関係について明らかにすることが出来た。今年度はリンに直接結合している置換基の中の残りの2つであるアルキル基とと触媒活性化機能との関係について検討する。種々のアルキル基が置換した一連の配位子類縁体を開発し互いの触媒活性化効果を比較することでアルキル基を最適化するとともに、アルキル基の構造と触媒活性化機能との相関の解明を目指す。 また、本触媒系の基質一般性の拡張に着手する。これまでの研究で、本触媒系はハロゲン化アリールまたはハロゲン化ヘテロアリールとアリールボロンとの鈴木-宮浦反応において優れた触媒機能を発揮することが明らかにされている。しかし、ヘテロアリールボロンの様な反応性が低く利用が困難な基質を用いた反応においては顕著な触媒機能の低下が見られていた。しかし、研究代表者らは、最近、本触媒系に共触媒として一価の銅塩を用いると鈴木-宮浦反応が顕著に加速することを見いだしている。これは、ボロン酸から始めに銅塩へのトランスメタル化が速やかに進行し、続いて生成したクプレートが速やかにパラジウムとトランスメタル化を起こしたためと考えられる。そこで、今年度は銅塩を始めとしてボロン酸とパラジウムとのトランスメタル化を効果的に補助する共触媒の探索とアヘロアリールボロン酸を始めとする低反応性有機ボロン酸を用いる反応への展開を検討する。また、ボロン酸以外の有機金属求核剤やアミンを始めとするヘテロ原子求核剤の利用も検討する。
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