研究実績の概要 |
今年度は、R-PhosおよびCyR-Phosが配位したパラジウム触媒の鈴木-宮浦反応以外へのクロスカップリング反応への応用を研究し、PinB2を用いるハロゲン化アリールAr-X (X = Cl, Br)のボリル化反応が0.01 - 0.1 mol%の触媒量でも短時間かつ高収率で進行することを見いだした。本反応では塩基の選択が重要で、KOAcが反応を顕著に促進した。さらに、R-PhosとCyR-Phosを比較したところ、互いに相補的な特徴を示した。即ち、立体的に不活性化されていない臭化アリールのボリル化反応では、Pd/CyR-Phos触媒はPd/R-Phos触媒に比べ顕著に高い活性を示し、1/10の触媒量を同等の反応時間で反応を完結した。一方、立体障害の大きい臭化アリールの反応では、Pd/CyR-Phos触媒は活性を完全に失うが、Pd/R-Phos触媒は活性を維持した。これらの結果は、臭化物と配位子の適切な組合せがボリル化反応の進行に重要であることを示している。また、この顕著な配位子依存性は鈴木-宮浦反応では見られないことから、トランスメタル化の進行を促進する新規配位子の開発がより効率的なボリル化反応の開発に有効であることを示唆している。また、ボリル化反応で生成するAr-BPinは求核剤であることから、触媒が反応終了後も失活しないならば、Ar-BPinのカップリングパートナーを追加することで連続的にクロスカップリング反応を進行させることが可能である。これは、単一触媒の多目的利用としても多段階反応操作の簡便化としても興味深い。そこで、Pd/R-Phosが高い活性を示す鈴木-宮浦反応を検討した。このボリル化反応と鈴木-宮浦反応のワンポット連続プロセスは、異なるハロゲン化アリールからの非対称ビアリール合成反応としても興味深い。検討の結果、ボリル化反応完結後にハロゲン化アリールをK3PO4水溶液と共に追加することで、鈴木-宮浦反応が速やかに高収率で進行し対応する非対称ビアリールを得ることに成功した。
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