カルボニル基がない化合物のマグネシウム還元は容易ではなく,本研究で取り扱ってきた活性オレフィンの多くは芳香族共役カルボニル化合物であった。最近,ビニルピリジンがマグネシウムで還元を受けることを明らかにし,4-ビニルピリジンのビニル末端への選択的なトリフルオロアセチル化が行えることを見出したが,次にシリル化反応を行ったところ,同様にビニル末端に選択的にトリメチルシリル基を始め,各種トリアルキルシリル基を収率良く導入できることを見出した。さらに異性体である2-ビニルピリジン及び3-ビニルピリジンについても反応を行ったところ,同様の共役系を持つ2-ビニルピリジンではシリル化は円滑に進行し,3-ビニルピリジンでは反応が複雑化することを見出した。これらの結果から,一連の反応でピリジン環のα位に官能基導入されない理由については,発生するアニオン種がピリジン環との共鳴,特に窒素原子との共鳴により安定化され,反応性が著しく低下することが原因であり,炭素ー炭素結合及び炭素ーケイ素結合形成反応が窒素原子との共鳴に大きく支配されていることが明らかとなった。 また前年度に報告した三重結合を持つ芳香族共役カルボニル化合物の等価体と考えられるβ位に脱離基を有する桂皮酸エステルを合成して,そのマグネシウム還元シリル化反応を行ったところ,非プロトン性極性溶媒中では脱離基が脱離してβ位に2つのシリル基が導入された化合物が主生成物として得られることを見出した。一方,テトラヒドロフランを溶媒とした場合には,脱離基の代わりにシリル基が導入された化合物が選択的に得られ,この反応条件ではシリル基を有する桂皮酸エステルは還元を受けないことが明らかとなった。 これらの炭素ーケイ素結合形成反応の結果は,アシル化反応などの新たな炭素ー炭素結合形成反応を制御,開発する上で非常に重要な知見となった。
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