研究課題/領域番号 |
25410116
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
浦 康之 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (40335196)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | パラジウム / Wacker型酸化反応 / ビニルアレーン / アリールアセトアルデヒド / 末端アセタール / ベンズアルデヒド誘導体 / 分子状酸素 / 環境低負荷型反応 |
研究実績の概要 |
パラジウム錯体触媒存在下,添加剤として環状の電子不足アルケンであるマレイミド類を用いることにより,酸素雰囲気下かつ穏和な条件下においてビニルアレーンの逆マルコフニコフ型Wacker型酸化によるアリールアセトアルデヒド合成反応が良好に進行することを見出した。生成物であるアリールアセトアルデヒドが元々不安定であり,アセトフェノン誘導体やベンズアルデヒド誘導体などの副生成物とも分離しづらいことから単離精製が難航していたが,化合物に応じて幾つかの単離精製方法を使い分けることによりそれぞれ単離可能となった。 また,上記反応と類似の反応条件下において,求核剤としてピナコールなどのジオールを用いることにより,種々の置換基を有するビニルアレーンから対応する末端アセタールが良好な収率で得られることを見出した。本反応は分子状酸素を最終酸化剤として用いたビニルアレーンからの環境低負荷型の末端アセタール合成法として意義深い。見出した反応条件を脂肪族末端アルケンに対しても適用したところ,反応が進行して末端アセタールが得られることを確認した。しかしながら,現時点では生成物の収率は非常に低く,今後,種々の反応条件を詳細に検討して収率の向上を目指す。 ビニルアレーンの炭素-炭素二重結合の酸化的開裂を経るベンズアルデヒド誘導体合成反応についてはほぼ最適に近い反応条件を見出しており,今後は基質適用範囲の検討および生成物の単離精製を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に記したとおり,アリールアセトアルデヒド合成反応自体は良好に進行することを見出していたものの,生成物であるアリールアセトアルデヒドの単離精製が困難であったため研究がやや滞っていたが,種々検討した結果,化合物に応じて2,4-ジニトロフェニルヒドラゾンへの誘導体化・シリカゲルカラムクロマトグラフィー・高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を使い分けることによりそれぞれ単離可能となった。求核剤としてジオールを用いた末端アセタール合成反応についてもほぼ実験データが揃ったことから,これらの反応に関しては近日中に学術論文を執筆し投稿する予定である。 脂肪族末端アルケンを基質として用いたアルデヒド合成反応および末端アセタール合成反応はいずれも高難度であり,反応が進行する条件がなかなか見出だせずに研究が遅れていたが,これも研究実績の概要に記したとおり,末端アセタール合成反応については低収率ながら生成物が得られることを見出した。これを糸口として上記の両反応が効率的に進行する条件を詳細に探索する。
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今後の研究の推進方策 |
逆マルコフニコフ型Wacker型酸化によるアリールアセトアルデヒド合成反応および末端アセタール合成反応については反応機構の解明が今後の検討課題であるが,反応中間体として生成するパラジウム錯体の観測にはこれまでに成功していない。添加剤として用いたマレイミド等の化合物がパラジウムの配位子として働いている可能性があることから,これらが配位した錯体を別途合成し,触媒として各合成反応への適用を試みる。また並行して速度論実験によっても機構解明を進める。 脂肪族末端アルケンを基質として用いた場合に,末端アセタール合成反応については低収率ながら生成物が得られている。本反応においては末端アルケンの内部アルケンへの異性化が競合することが問題点の一つと考えられるため,異性化を抑制する方向での反応条件の探索を行う。これらの知見を手がかりに,アルデヒド合成反応においても脂肪族末端アルケンを基質として検討を進める。 ビニルアレーンの炭素-炭素二重結合の酸化的開裂を経るベンズアルデヒド誘導体合成反応についてはほぼ最適に近い反応条件を見出すに至っており,その条件を用いた基質適用範囲の検討および生成物の単離精製を行う。本反応における中間体であるアリールアセトアルデヒドからベンズアルデヒド誘導体へと酸化される過程においてはパラジウム錯体と銅錯体のいずれも触媒として働くことが明らかとなっており,その機構を詳しく調べることとする。
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