ビニルアレーンを原料として,パラジウム錯体/塩化銅触媒を用いた逆マルコフニコフ求核攻撃を経るアリールアセトアルデヒドおよび末端アセタール合成法を開発した。溶媒兼求核剤として嵩高い第三級アルコールであるt-アミルアルコールを用いることにより,立体障害に基づいた高い逆マルコフニコフ選択性を実現出来た。既報の類似の反応とは異なって,本反応では末端酸化剤として常圧の分子状酸素を利用出来ることが大きな利点であり,かつ,40℃という室温に近い穏和な条件下で反応が進行する。環状の電子不足アルケンであるマレイミドやp-キノン類を少量添加することが本反応における鍵であり,反応速度および目的生成物の収率・選択性の向上が認められた。触媒活性のさらなる向上や副生成物の生成抑制など,依然として幾つかの改善すべき点が挙げられるが,常圧の酸素を用いて穏和な条件下で上述の反応が進行したことは,末端アルケンからのアルデヒドおよびその誘導体の環境低負荷な新しい合成方法として意義深い。また,アリールアセトアルデヒド合成反応においては,通常は比較的短時間(1~4時間)で完結するが,同条件下のままでさらに長時間(計24~96時間)反応を続けることにより,生成したアリールアセトアルデヒドがさらに酸化されてベンズアルデヒド誘導体が主生成物として得られることも見出した。即ちこの反応はビニルアレーンの酸化的開裂に相当し,やはり常圧の酸素下,穏和な条件下で進行することから興味深い。この二段階目の酸化はパラジウム、銅錯体のいずれによっても触媒される。
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