研究課題/領域番号 |
25410118
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
門田 功 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (30250666)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 海洋産天然物 / ポリ環状エーテル / 全合成 / シガトキシン / タムラミド / エニグマゾール / 分子内アリル化 / 閉環メタセシス |
研究概要 |
近年、海洋生物が生理活性天然物の宝庫として注目を集めている。中でも渦鞭毛藻類が生産するポリ環状エーテルは、その特異な構造と生理活性から多くの化学者の注目を集めてきた。その一つであるシガトキシンは食物連鎖によって食用魚に蓄積され、年間五万人以上という大規模な食中毒を引き起こす。一方、類似の構造を有するタムラミドAは、他のポリ環状エーテルの活性を阻害するものの、全く毒性を示さない。これらポリ環状エーテルは神経細胞のイオンチャンネルに作用していると考えられており、その活性発現機構について興味が持たれているとともに、チャンネル研究のための分子プローブとしても注目されている。しかし、多くは超微量成分であるため、十分な研究が行われていないのが実情である。また、最近になって海綿の一種から単離されたエニグマゾールAは新規なホスフォマクロライド構造であり、様々なヒトガン細胞に対して顕著な増殖阻害活性を示すことから新規な医薬品リード化合物として興味が持たれている。 本研究では、分子内アリル化反応によるエーテル環構築を伴うセグメント連結法を基盤とし、これら希少天然物の効率的な全合成を目指す。これによって、分子の複雑さや希少性のため活用が困難であった生理活性天然物を効率的に化学合成し、その量的供給を実現することができる。これに成功すれば、有機合成化学の分野だけでなく、関連領域の発展に大きく貢献することができる。すなわち、分子プローブ創成や標的タンパクの同定および活性発現機構の解明が可能となり、さらには生体機能解明や新規な治療薬開発への応用など、様々な分野への波及効果が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の大きな研究成果の一つとして、タムラミドAの全合成を達成した。この化合物は2010年に赤潮原因渦鞭毛藻Karenia brevisより単離された、アセトアミド基とジエナール側鎖を有する新規な7環性のポリ環状エーテルである。これまでの研究において、ABC環およびFG環セグメントの立体選択的合成を完了していたので、本研究においてはそれらセグメントの連結と側鎖導入について検討した。まず、分子内アリル化法と閉環メタセシスを用いた手法により両フラグメントを連結、母骨格である7環性エーテル構造を効率よく構築することに成功した。続いて側鎖部分の導入を行った。特徴的なアセトアミド基はCurtius転移反応によって導入し、共役ジエン部分は二度のWittig反応を行うことで構築した。最後に官能基変換と脱保護などの操作を行い、タムラミドAの全合成を達成した。 上記と平行してシガトキシンCTX3Cの合成研究についても検討を行った。これまでの研究によって左右二大フラグメントの合成ルートを確立しているが、今回さらに反応条件の検討などをおこなって、必要な化合物の量的供給を実現した。また、これらセグメントを効率的に連結する方法について、まずモデル化合物を用いた検討を行い、分子内アリル化法と閉環メタセシスを用いた手法が有効であることを確認することができた。今後さらに検討を重ね、この方法が実際の合成にも適用可能かどうかについて評価を行う。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きシガトキシンCTX3Cの全合成を進める。これまでの研究により、A-E環およびH-M環部に相当する二大フラグメントの合成ルートを確立している。今後さらに各段階の反応について反応条件などの最適化をはかり、必要な量の供給を実現する。これらと平行して、合成したセグメントの連結について検討を行う。まずモデル化合物を用いて、分子内アリル化反応と閉環メタセシスによるポリ環状エーテル連結法の予備実験を行う。この結果を踏まえて、すでに合成したセグメントの連結を試み、シガトキシンCTX3Cの全合成を目指す。 次にエニグマゾールAの合成研究を行う。この化合物は2007年にパプアニューギニアの海綿Cinachyrella enigmaticaから単離された18員環マクロライドである。エニグマゾールAは海洋産マクロライドとしては初のホスホマクロライドであり、他にも2,4-二置換オキサゾール環を有するなど構造的に興味深い。また、その生理活性としては、他の含THP環マクロライドと同様に強力な細胞毒性があり、様々なヒトガン細胞に対して顕著な増殖阻害活性を示すことが知られている。本年度は、まず不斉アルドール反応などを用いてオキサゾール環を有するアルデヒドセグメントを合成した後、キラルなアリルホウ素反応剤を作用させてホモアルルアルコールセグメントの合成を行う。 これらの研究と平行して、エニグマゾールに類似した含THP環マクロライド構造を有する海洋産天然物ダクチロライドの合成研究についても検討を行う。
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