研究課題/領域番号 |
25410123
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
松原 公紀 福岡大学, 理学部, 教授 (00294984)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ニッケル1価錯体 / N-ヘテロ環状カルベン / 触媒的アミノ化反応 / Suzukiカップリング反応 / ヒドロアリール化反応 |
研究概要 |
一連のニッケル1価錯体の合成研究を進めた。得られた錯体は単離し、X線構造解析により構造決定した。特に2,2'-ビピリジンを配位させたニッケル1価錯体は、溶液中では空気中で非常に不安定であるが、結晶状態では空気中でしばらくの間取り扱うことが可能であった。この錯体はこれまでのニッケル1価錯体と同様の触媒活性を保持しており、非常に興味深い。さらにこのニッケル1価錯体を用いたハロゲン化アリールのBuchwald-Hartwig Aminationの反応検討を進めた。その結果、いくつかの不活性なビアリールアミン類のアリール化反応を達成することができた。 一方、これまではかさ高いN-ヘテロ環状カルベン(NHC)配位子が結合したニッケル1価錯体を扱ってきたが、より小さな配位子を導入する検討を行った。ニッケル周りの配位子のかさ高さが減少すると、ニッケル1価錯体は空気や熱に対する不安定性が高くなり、合成には困難を要した。目的とする錯体は何とか合成することができ、フェニルボロン酸を用いたハロゲン化アリールのSuzukiカップリングが進行することを明らかにした。合成検討の中で、IPrで用いたのと同じく、2,2'-ビピリジンを導入することによってIMesを有するニッケル1価錯体は容易に取り扱うことができるようになった。この錯体を用いた種々の反応検討は今後の課題である。 反応開発のアプローチも検討している。ニッケル2価前駆体に還元剤とかさ高いNHCを加え、アリールボロン酸とアルケンのヒドロアリール化反応が進行することを明らかにした。このホウ素試薬を用いたヒドロアリール化反応は、ニッケルでは知られていない。本研究ではさらに1価のニッケル2核錯体が触媒活性を示すことを示しており、今後、その他のニッケル1価錯体を検討しながら、種々の基質や条件などの検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、かさ高いN-ヘテロ環状カルベン(NHC)を用いることによって、これまでに応用例のない高活性ニッケル1価錯体触媒の開発を基に、その触媒プロセス構築のために統括的なアプローチを行うことを予定している。そこで、(1)より扱いやすく、活性を保持した触媒前駆体の構築、(2)ハロゲン化アリールの活性化を基軸とした、ニッケルが不利とする触媒反応系の開拓が初年度の目標であった。実際に、導入する配位子を工夫することにより、触媒活性を維持したまま安定で取り扱いやすいニッケル1価触媒の前駆体の合成に成功している。また、通常ニッケルを用いても反応しにくい不活性なビアリール類のアリール化反応を検討し、いくつかの基質について反応が効率的に進行することを明らかにしている。同じく、NHC配位子の検討により、Suzukiカップリングに活性をもつことを示したことから、今後、アリールボロン酸を用いた触媒的C-C結合系正反応への適用が可能であると考えている。このような見地から、ニッケル1価2核錯体を触媒に用いて、これまでニッケルでは例のない、アリールボロン酸エステルによるスチレンのヒドロアリール化反応を見出すことに成功している。以上から、初年度の研究成果は概ね予定していたとおりであり、順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2つの方向性で検討を進める。第1に、反応開発研究をさらに進めたい。現在までに開発された触媒反応の基質検討を進めるとともに、イリド共存下での触媒的Suzukiカップリングなどの検討を進めたい。第2に、反応機構に関する知見を得たい。具体的には、放射光施設などを利用し、溶液中の錯体化学種の構造解析を行いたいと考えている。ここでは、反応活性種が2核構造を維持しているのかどうか、ニッケル1価化学種がどのような役割を担っているのかを明らかにしていきたいと考えている。
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