本研究は、かさ高いN-ヘテロ環状カルベン(NHC)によって安定化されたニッケル(I)2核錯体において、1価⇔2価の一電子酸化還元プロセスで構築できる点、不安定なニッケル0価種を経由しない点に着目し、これまでに応用例のない高活性ニッケル1価錯体触媒を基軸として、その触媒プロセス構築のために統括的なアプローチを行うことを目的としている。この目的を達成するため、4つの小テーマを設定している。(1)より扱いやすく、活性を保持した触媒前駆体の構築、(2)ハロゲン化アリールの活性化を基軸とした、ニッケルが不利とする触媒反応系の開拓、(3)イリドなどのこれまであまり用いられていない挿入因子を導入した新規触媒反応開発、(4)多核構造の協奏的活性化を意識した基質の活性化様式の解明、である。 (1)の扱いやすいニッケル1価錯体の構築については、ハロゲン配位子、配位構造、その他の配位子の影響の3つの方針で取り組み、固体状態であれば空気中で取り扱うことが可能となった。これにより、触媒活性を保ちつつ、安定な錯体をいくつか合成することに成功した。(2)のニッケルが不利とする触媒反応系の開拓については、特にニッケル、パラジウムを用いても高温条件が必要なジアリールアミン類のハロゲン化アリールによるアリール化反応について、一連の検討の中で、反応効率の向上、反応機構に関する知見を得ることができた。この成果は、特に有機電子材料の分野において、新たな発見をもたらすことになった。(3)ではイリドの検討は行ったものの、目立った成果は得ていない。立体障害の影響が考えられるため、反応システムの再考が必要である。一方で、ホウ素試薬を用いたアルケンのアリール化およびHeck反応という新たな触媒反応の発見という成果を得ることができた。(4)の多核構造をモチーフとする反応システムの開拓は、今後さらに検討が必要であると考えている。
|