研究課題/領域番号 |
25410127
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
野村 信嘉 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (70291408)
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研究分担者 |
大石 理貴 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (20376940)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ラクチド / ポリ乳酸 / ポリラクチド / 立体選択性 / イソタクチック / ヘテロタクチック / 重合触媒 / マグネシウム |
研究概要 |
本年度は、まず光学的不活性であり市販されているラセミラクチドをモノマーとして、サリチルアルドイミン-マグネシウム錯体を用いた立体選択的重合を検討した。 これまで我々が用いてきたアルミニウム錯体に対し、マグネシウム錯体は高い重合速度でラクチドをポリ乳酸へと変換できることが知られている。触媒配位子として用いたサリチルアルドイミンのサリチルアルデヒド部位に様々な置換基を導入し重合を検討したところ、反応点に近い位置に嵩高い置換基を導入すると、重合速度が大きくなることを見出した。これはサレン-アルミニウム錯体を用いた重合と逆の傾向であり、二つの重合機構における律速段階が異なることが示唆された。すなわち、サリチルアルドイミン-マグネシウム錯体によるラセミラクチドの重合では、重合の律速段階がモノマーとマグネシウムの配位ではなくその後のラクトンの開環過程であると考えられる。このため、マグネシウム近傍にはまだ十分なスペースが存在し、さらに嵩高い置換基の導入が可能だと考えられる。次年度は、より詳細な置換基効果を検討する予定である。また、サリチルアルデヒド部位のヒドロキシル基から最も遠い位置に嵩高い置換基を導入すると、触媒の重合能を大きく高めることも見出した。その理由については今後の研究課題である。反応時間は短く、1 mol %の錯体を用いた最も重合速度の大きい触媒では室温、3分で90%のモノマーがポリ乳酸へと変換した。室温の重合では際だった立体選択性は見られなかったものの、わずかにヘテロタクティック性が見られたため、低温での重合を検討した。-40度C、4時間でモノマーは70%反応し、得られたポリマーを分析したところ、ヘテロタクティック選択性を表すPr値は0.83であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、L-乳酸1分子とD-乳酸1分子とが脱水環化縮合して得られるmeso-ラクチドの重合を検討する予定であったが、meso-ラクチドは市販されておらず、多段階合成で低収率となることに加え、精製には多大な労力と時間が必要である。そこで効率的に目的を達成するために、市販され入手容易なラセミラクチドを用いたヘテロタクチック選択的重合触媒の開発を検討した。触媒として用いたサリチルアルドイミン-マグネシウム触媒にはキラルな環境がない(アキラルである)ため、立体規制はポリマー鎖末端の不斉炭素が錯体のコンフォメーションに影響を与え、次に一方の鏡像異性体と選択的に反応し成長反応が進行する。ラセミラクチドをヘテロタクチック選択的に重合する触媒は、末端の不斉とは逆のモノマーと選択的に反応しやすいことから、meso-ラクチドを重合すると、シンジオタクチック選択性を示すことが期待される。 その一方で、もしこの触媒がmeso-ラクチドに対してヘテロタクチック選択性を示すと、興味深い重合系を構築できる。それはラセミ乳酸から合成するラクチドは、L-、D-、およびmeso-ラクチドの混合物となるが、これらの混合物を分離せずに単一のヘテロタクチックポリ乳酸を合成できる可能性がある。 当初の研究計画とは異なるアプローチによって触媒開発を行ったが、ラセミラクチドに対するヘテロタクチック選択的重合触媒を新たに開発することができたことに加え、その触媒がmeso-ラクチドに対して、目的とするシンジオタクチック選択性を示す可能性がある。もし触媒がヘテロタクチック選択性を示した場合には、これまでに研究例のない興味深い展開も期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
まずこれまでに開発した、ラセミラクチドに対してヘテロタクチック選択性を示すサリチルアルドイミン-マグネシウム触媒について、さらに高い選択性を目指して、配位子の置換基効果について詳細に調べる。同時に、これまでの最も高い立体選択性を示した触媒を用いてmeso-ラクチドを重合し、その立体規則性を調べる。立体規則性(ヘテロタクチック/シンジオタクチックとその割合)は、生成ポリマーのミクロ構造を調べることにより決定することができる。meso-ラクチドの立体選択性と置換基との相関を調べ、シンジオタクチック選択的触媒を開発する。 また、不斉環境を持たないサレン触媒を用いたmeso-ラクチドのシンジオタクチック選択的重合触媒を検討する。二つの窒素原子を繋ぐバックボーンは錯体のコンフォメーションに大きな影響を与え、末端鎖制御における立体選択性の鍵となる。これまでの予備実験では、meso-ラクチドの重合においてC3の錯体は立体選択性を示さなかった(CH2CH2CH2およびCH2CMe2CH2、M = Al-OBn, R = tBuMe2Si)。そこでC2あるいはC4のバックボーンを有する錯体を検討する。バックボーンがC3からC2へと短くなると、R基同士が近付き、モノマーであるmeso-ラクチドが金属中心に近づく際に二つのR基の影響でmeso-ラクチドの立体選択性発現の可能性がある。逆にC3からC4へとバックボーンが長くなると、錯体周りの配位子がらせん状となり、らせん環境による不斉認識も期待できる。様々なバックボーンの配位子を合成し、meso-ラクチドの立体選択的重合を検討する。
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