研究課題/領域番号 |
25410131
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
徳満 勝久 滋賀県立大学, 工学部, 教授 (70336717)
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研究分担者 |
岡本 正巳 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60288553)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 高分子物性 / 熱融着 / レオロジー / ポリシラン / ポリプロピレン / 力学物性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は「ポリシラン(PMPS)材料と各種高分子との相互作用の本質」について明らかにすることであり,平成25年度はポリプロピレン(PP)材料にPMPSを添加する効果の検証実験を行い,以下のようなことを明らかにした。①PPフィルム界面へのPMPS塗布効果:PPにPMPSを塗布することにより熱融着後の剥離エネルギーが増加し,更にPMPSを塗布したPPではneat PPでは融着しない温度160度,120秒で完全に融着することが分かった。一方,参照実験として行ったPPにシリコンオイルを塗布したフィルムでは,neat PPよりも大幅に剥離エネルギーが低下すること分かった。②溶融状態におけるレオロジー測定結果:PPの溶融状態における貯蔵せん断弾性率の測定結果よりマスターカーブを作製し,シフトファクターの値より活性化エネルギーを算出した結果,PMPS添加PPはneat PPより低い値(約31kJ/mol)となり,PMPS添加により溶融状態での分子運動性が向上することが分かった。平成26年度より複合材料系へのPMPS添加効果について検討を行い,次のようなことを明らかにした。①ナノシリカ充填PP系材料にPMPSを添加することにより,ナノシリカ粒子の分散系が著しく向上した。②当該フィラー充填PP系材料の力学物性を評価した結果,脆性的な力学物性が延性化する効果を発現した。③また,ガス透過性について評価を行った結果,5wt%ナノシリカ添加PPにおいてPMPSを2.5phr添加した系では酸素バリア性が22%向上することが分かった。しかしながら,5phr添加した系では,酸素バリア性が低下する傾向を示し,PMPSの添加量には最適値が存在するという可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の全体計画は平成25年度から27年度までの「3年計画」となっており,初年度(平成25年度)では「PMPS添加によるPPの熱融着特性の向上効果の検討」を実施した。その際に「物性評価検討項目」として実施した事項は,①熱的物性評価(DSC測定),②溶融状態のレオロジー特性評価,③固体力学物性(動的粘弾性,引張り試験)等であり,PMPSを添加したPP系材料の固体物性から溶融状態における流動特性という幅広い力学物性を評価しており,当初計画した項目はほぼ全て終了している。具体的な達成内容(成果)としては,①DSC測定結果:PMPS添加に伴いPPの結晶融解温度は低下するものの結晶化度は増加する傾向を示す,②溶融状態におけるレオロジー特性測定結果:PMPS添加PPの分子運動に要する活性化エネルギーが低下,③固体力学物性測定結果: PPのベータ緩和(アモルファス状態にあるPP鎖の緩和ピーク)の緩和強度が,PMPSの添加により緩和ピークの温度位置が低温側にシフトする傾向が認められ,その緩和強度もPMPSの添加量の増加と共に増える傾向が認められた等の知見が得られた。平成26年度にはナノシリカ添加PP複合材料系においてPMPSを添加することにより,ナノ粒子の分散性が著しく改善する効果が認められ,またそれに伴って力学物性も改質できる効果を発現することが分かった。また,ガス透過性については「5wt%ナノシリカ添加PPにおいてPMPSを2.5phr添加した系では酸素バリア性が22%向上する」効果を確認したものの,5phr添加した系では酸素バリア性が低下する傾向を示すことも分かった。これらの結果より,当研究課題の達成度はおおむね順調に進展しているものと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
1.各種高分子へのポリシラン添加効果の検討 平成26年度までの成果として,酸素ガスバリア性にPMPS添加が与える影響が顕著であることを勘案し,今後は「酸素ガスバリア性」として多く用いられているエチレンビニルアルコール(EVOH)系樹脂とPMPSとの複合化を検討する。特に,PMPSのガスバリア性に与える影響がEVOH系でも顕著に発現するのか,その割合は自由体積効果と相関するのか等の基礎的な検討を中心に実施する。調製したEVOH系樹脂とPMPSブレンド材料に関して,熱的物性評価(DSC測定),固体力学物性(動的粘弾性,引張り試験)等のマクロな物性評価を実施すると共に,PMPS添加高分子系材料のミクロな物性評価(XRD,SAXS等による結晶構造解析,長周期構造解析),超音波法による縦波音速,横波音速結果を用いたポアソン比等の基礎材料物性評価,更には陽電子消滅法等によりアモルファス領域の定量的評価を実施し,また密度測定により「結晶/非晶の二相モデル」を仮定することによりアモルファス密度を算出することなどを実施する。 2.PMPS添加による高分子系材料の耐久性(光劣化,熱劣化)に与える影響把握 本研究では当初より,「PPをマトリクスとする樹脂材料にPMPSを添加する効果」について検討を行っており,種々の顕著な特性改質効果を明らかにしてきた。特に融着特性の改質効果や無機系複合材料系における力学物性の改質効果等,従来のポリオレフィン材料の改質材料には見られなかった特異的な効果を見出してきた。今後,このような特徴ある材料を工業的に使用するには,「PMPS添加樹脂系の耐久性評価」が重要になる。そこで,平成27年度はマトリクス樹脂としてPP或いはPEを用い,PMPSを添加することによる耐久性評価(光劣化特性,熱劣化特性)の評価を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
先の「学会発表成果」に記載した通り,平成26年度に国内学会1回,国際学会にて2回発表したにも関わらず旅費としての請求を失念しており次年度使用額が28万円程度生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に関しても引き続き,当研究課題に関する対外的発表を積極的に実施する予定であり,当該旅費として使用する計画である。また,各種実験に供する消耗品(フィルム成形用金型等)についても当該費用から支出する予定である。
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備考 |
受賞テーマ「ポリシラン添加によるPP の各種物性改質技術に関する研究」 本研究では,ポリシラン添加によるポリプロピレン(PP) の熱融着性の改質効果や,分子運動性等に与える影響について,更には化学的計算手法(MD法)を用いてポリシランと典型的なポリオレフィン系材料であるポリエチレン(PE)との相互作用について検討を行った。
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