研究課題/領域番号 |
25410135
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪市立工業研究所 |
研究代表者 |
玉井 聡行 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 電子材料研究部, 研究副主幹 (50416335)
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研究分担者 |
小林 靖之 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 電子材料研究部, 研究主任 (00416330)
渡辺 充 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 電子材料研究部, 研究主任 (70416337)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有機・無機ハイブリッド / 無電解めっき / プラズマ処理 / 高分子電解質多層膜 / 金属ナノ粒子 / ポリマーフィルム |
研究実績の概要 |
ポリマー材料の表面に、無電解めっきにより金属薄膜を形成させるには、その表面へのめっき反応開始触媒の付与、ポリマー/金属間の密着性の確保が必要となる。高い化学・物理的安定性をもつ工業用PENおよびPETフィルムの表面をプラズマ処理することで極性官能基を生成させ、それを利用してポリカチオンとポリアニオンから形成される高分子電解質多層膜(PEM)を交互積層法(LbL:layer-by-layer)により形成させた。その表面への無電解めっきを行った。プラズマ処理を行ったPEN,PETフィルムをポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)(PDDA)とポリ(スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSSNa)の水溶液に交互浸漬し、最終層をPDDAもしくはPSSNaとすることでカチオンもしくはアニオン性の最表面を持つPEMを作製した。アニオン性表面を持つシリカ粒子をPEM表面に吸着させたところ、カチオン性表面にのみ吸着されることが明らかとなり、最終層がPEM表面の電荷を決定していることが確認された。またFE-SEM観察等により、プラズマ処理はフィルムの表面での極性官能基の生成に加えて、高分子成分の低分子量化とそれに伴うフィルム表面の微細構造変化、すなわちナノフィブリル構造の形成を引き起こし、それらがフィルム表面とPEMとの親和性を高めると考えた。 PETフィルム表面において、ラジカルを活性種とするアクリレートの重合と金属ナノ粒子の同時進行により、金属ナノ粒子/シリカナノ粒子/アクリルポリマーハイブリッド薄膜をIn-Situ形成させ、その無電解めっきを行った。希少元素であるPdの代替としてAgについて検討した。ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)を用いたハイブリッド薄膜表面では無電解めっきが進行したことから、アルコール基がAgナノ粒子の触媒活性向上に寄与していると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PENフィルム/PEM/Pdナノ粒子/銅薄膜が積層した構造体において、めっき皮膜の密着性を向上させるためには、各層間の相互作用を高める必要がある。プラズマ処理では、フィルム表面に生成する数十nmサイズのナノフィブリル構造とそれに含まれるカルボキシル基およびアルコール基が、PEMの構成成分であるポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)(PDDA)と強く相互作用するためPENフィルム/PEM界面で高い密着性が得られると考えられる。一方、UV光照射、UV/オゾン処理、アルカリ処理等によるフィルム表面の親水化では、プラズマ処理と比較して親水化の程度が十分でなく、かつナノフィブリル構造も認められず、PENフィルム/PEM界面での密着性も得られなかった。 ハイブリッド薄膜のIn-Situ形成では、それらのFE-SEM観察結果、およびAgナノ粒子由来のプラズモン吸収の分析結果などから、初期過程に高濃度で発生するラジカルによりポリマーネットワーク構造の形成とAg+の還元が進行し、引き続いてネットワーク中で熱反応によりAgナノ粒子が生成することが示唆された。ネットワーク中でAgナノ粒子の拡散は制限されるため凝集による粗大粒子化が進行せず、その触媒活性を維持することが示唆された。 以上のように、有機無機複合体の構造、特に各成分間の界面の構造を、ナノスケールで解析・制御することが機能発現において重要であることを明らかにする本研究課題の目的の一部を達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
PENフィルム/PEM/Pdナノ粒子構造において、1) プラズマ処理が引き起こす化学反応とそれにより生じるPEN表面の分子構造の解明、2) PENフィルム/PEM界面における成分間の相互作用を項目(1)の結果をふまえて解明、3) PEM中でのパラジウムナノ粒子の状態の解明を中心に研究を行う。項目(1)についてはXPS, ATR-FT-IR, 対水接触角測定等の基本的な表面の機器分析に加えて、PENの蛍光スペクトル測定、フィルム表面への色素の吸着とそのUV吸収スペクトルおよび蛍光スペクトル測定などを行い、分析厚み・改質厚み等についても考慮し、PENフィルム表面の分子構造を解明する。項目(2)では、PEMとPDDA単層との挙動の比較、あるいは他の親水化処理を経たPENフィルム表面でのPEM形成などについても検討を行う。項目(3)では、FE-SEM,TEMによるPdナノ粒子の観察、そしてそれらと実際の無電解銅めっきの結果との比較などを通じて検討を行う。さらに、実用化を視野に、各種工業用フィルムや予め親水化処理が施されたPETフィルムへの適用、またそれらに適した、プラズマ以外の親水化手法(UV光照射、VUV光照射、UV/オゾン処理、アルカリ処理等)についても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗が計画と異なる点もあるため、物品の購入や学会出張の一部を次年度(最終年度)に先送りしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品および小型機器類の購入、学会出張(海外含む)、論文投稿等に使用する。
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