飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)と近接場赤外分光法(NFIR)を組み合わせて、分子の同定と解析対象の組織における標的分子分布のイメージングが 500nm 以下の空間分解能で測定可能であり、かつ定量分析に関する知見も得られる手法が開発された。TOF-SIMS と NFIRの両方のデータを多変量解析することにより、複雑なスペクトルデータの解釈を可能とし、TOF-SIMSによる詳細な質量イメージとNFIRによる定量性も含めた情報取得が同一試料に対して得られた。 TOF-SIMS による分子レベルでの生体組織における分布イメージングは、これまでは脂質やコレ ステロールなど特徴的な二次イオンが検出しやすい分子に限られていたが、本課題によって、血液成分など未知生体分子を含む成分の分布イメージ取得が容易となるような TOF-SIMSとそのデータ解析のプロトコールを開発し、透析膜の血液吸着評価に応用した。NFIR に関しては、試料に特有の吸収スペクトル はほぼ赤外吸収と同様と言われているが、近接場赤外吸収スペクトルそのものに関する研究例は まだ少ないため、多変量解析を利用して、試料に特有の吸収スペクトルを明らかにし、TOF-SIMSと同様に透析膜における血液吸着の評価への応用に成功した。 分子検出に関しては、TOF-SIMSでは分子のフラグメント化が特に高分子で避けられないため、 スペクトルの解析が難しいことを逆手に取り、フラグメント化した生体高分子由来の二次イオンに注目し、高感度イメージングを可能とした。この成果は、国内外の学会で発表し、現在論文投稿準備中である。
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