対物レンズを用いてレーザー光を集光照射した際に生じる集光点での局所温度上昇は、光学顕微鏡下で観測される物理化学現象を理解するうえで必要不可欠な情報である。最終年度である平成27年度は、気相中において捕捉した微小水滴のレーザー光照射に伴う温度上昇を精密に計測した。これまで光学顕微鏡下での温度の見積もりに関しては、様々な実験的手法で計測がなされてきたが、エアロゾル水滴を対象とした実験においては、理論計算値と実験値は必ずしも一致しておらず、更なる検証が必要であった。我々は、気相中においてレーザー捕捉した微小水滴に、熱源として近赤外レーザー光を照射し、水滴の温度を制御する実験を行った。微小水滴の平衡直径の変化から見積もった温度上昇の実験値と、水の吸収係数から見積もられる理論計算値が良く一致することを世界で初めて示すことに成功した。マイクロメートルサイズの微小水滴は、容易に蒸発してしまうため取扱いの難しい測定対象であるが、この実験的な困難を逆手にとって、光学顕微鏡下における極めて高感度な温度計測が実現された。尚、本研究成果は、Analytical Sciences誌2016年4月号において注目論文に選定された。マイクロメートルサイズのエアロゾル水滴は、自然界における雲粒のモデル反応系として大変重要である。本研究課題で確立した、気相中の微小水滴を対象としたレーザー捕捉法の要素技術を駆使して、今後は光化学反応を含むより複雑な大気化学反応を取り入れた、雲粒の発生や成長に関するモデル実験系へと研究を展開する予定である。
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