研究課題/領域番号 |
25410147
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
持地 広造 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40347521)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | クラスターイオン / 中性化率 / 解離 / 質量スペクトル / 衝撃応力 |
研究概要 |
高速・無電荷クラスタービームの生成評価装置を試作する前段階として、アルゴン(Ar)クラスターイオンを各種金属に衝突させたときの、クラスターイオンの中性化率および解離特性を調べた。クラスターの構成原子数:1000~2000原子、加速電圧:5~7.5kVの条件で実験を行った。この結果、以下の知見が得られた。 ①Arクラスターイオンの構成原子1個あたりの平均的運動エネルギー(Ea)(イオン全体の運動エネルギーを構成原子数で割った値)を変えて照射し、試料から放出される二次イオンの質量スペクトルを計測した。質量スペクトルはEaの値によって変化した。 ②Ea が2~10eVの範囲では、質量スペクトルはArクラスターイオンが解離した2~5量体(Ar2+~Ar5+)程度の小さいクラスターイオンのみで構成された。ここで、入射イオン電流に対する解離イオンの総和電流の比を1から引いた値をクラスターイオンの中性化率と定義すると、中性化率は97%程度(銀試料に対して)であった。Ea が10eV以上になると、解離イオンに加えて試料金属の二次イオン(Ag+など)が検出された。 ③同一のEa 条件で照射したにも関わらず、解離イオンの相対強度は衝突する金属の種類によって異なることが判明した。この結果について弾性衝突近似により解析した結果、解離度(検出された解離イオン強度の総和に対する2量体イオンの強度比)は、各種金属との衝突時にクラスターが受ける衝撃応力にほぼ比例することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の実績のうち、③の内容について詳細に検討したため当初の計画である無電荷クラスタービーム生成評価実験がやや遅れている。しかし、③の結果は無電荷クラスターの生成を含めてナノクラスターのより広範な基礎および応用の分野において極めて大きな意義をもっているものと考える(後述)。
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今後の研究の推進方策 |
③の結果は、クラスターの解離に及ぼす衝突力学的効果を観測したものであり、報告者の知る限り、このような観測は世界初である。これまでクラスターと固体の衝突現象については、主として量子力学あるいは分子動力学などをベースとする原子・分子論的アプローチから研究がなされてきた。これに対して、本結果はクラスターを一つの連続体とみなして古典力学によってクラスターと固体の衝突を解析できる可能性を示唆するものである。金属との衝突時にクラスターが受ける衝撃応力は弾性衝突近似のもとでは金属のヤング率によって決まる。したがって、未知材料との衝突によるクラスターイオンの解離スペクトルを検出することによって、当該材料のヤング率を測定することが可能である。以上のような状況に鑑み、今後はArクラスターイオンの衝突誘起解離特性の研究を優先させ、併せて無電荷クラスタービーム生成への手がかりを探っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験の予期せぬ結果から、研究の方法が少し変わったため。 物品費、旅費、その他で全額を使用する予定である。
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