研究課題/領域番号 |
25410150
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
石原 浩二 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20168248)
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研究分担者 |
稲毛 正彦 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (20176407)
小谷 明 金沢大学, 薬学系, 教授 (60143913)
高木 秀夫 名古屋大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (70242807)
岩月 聡史 甲南大学, 理工学部, 准教授 (80373033)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ボロン酸金属錯体 |
研究実績の概要 |
本年度は主に、(1)ボロン酸とボロン酸イオンの反応性の評価、(2)ボロン酸と糖との反応の反応活性種の特定と反応機構論の解明、および(3)糖の定量に向けた発光性金属錯体の合成と反応性の評価を行った。 (i) これまで、三配位のボロン酸は四配位のボロン酸イオンよりも反応活性であることを示してきたが、ボロン酸の反応性はボロン酸の酸性度の減少に伴って減少するのに対し、ボロン酸イオンの反応性は逆に増加するため、両者の反応性はあるところで逆転することが示唆された。本研究ではこの逆転現象が実際に起こるのか否か、また、なぜそのようなことが起こるのかを明らかにするための実験を行った。また、(ii) 多くのボロン酸は過剰のD-フルクトースと二段階で反応することを確認しているが、二段階目の反応は変化が寡少であるため、分子間反応であるのか分子内反応であるのかの判断が困難であった。本研究では、分子構造上糖との分子内反応が起こり得ないジフェニルボリン酸とD-フルクトースとの反応を詳細に検討し、反応機構の解明を試みた。(iii) ボロン酸と糖との反応においては、ボロン酸過剰の自己緩衝作用を利用できないため、pH緩衝剤を用いざるを得ない。本研究では、用いたpH緩衝剤が反応に及ぼす影響を詳細に検討した。(iv) 2-フェニルピリジン(ppy)、2,2’-ビピリジル-4-ボロン酸(bpyB)、2,2’-ビピリジル-4,4’-ジボロン酸(bpyB2)を配位子とする発光性Pt(II)錯体([Pt(ppy)(bpyB)]+など)を合成し、キャラクタリゼーションを行った。また、発光性Ir(III)錯体([Ir(ppy)2(bpyB)]+など)の合成とキャラクタリゼーションを行った。これらのIr(III)錯体はD-フルクトースと反応することにより、発光強度が大きく増大することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(i) ボロン酸とボロン酸イオンの反応性の逆転が起こるか否かを確認するために、配位子としてアリザリンレッドSを用いて、pKaの異なる種々のボロン酸との反応の速度論的測定および解析を行った。その結果、ボロン酸の反応性はpKaの上昇に伴って直線的に単調に減少するが、ボロン酸イオンの反応性は、あるpKaまでは直線的に増加し、その後減少に転じ、両者の反応性の逆転は起こらないことがわかった。この現象に普遍性があるのかは更に多くの系で検討する必要がある。(ii) 分子内反応を起こし得ないジフェニルボリン酸と過剰のD-フルクトースとの反応は、比較的遅い一次反応であった。このことは、ボロン酸とD-フルクトースとの反応の二段階目の反応が分子内反応であることを示唆するが、この反応の生成物は二種類(約4:1)であり、この反応の速さがボロン酸とD-フルクトースとの反応の二段階目と同程度であるため、二段目の反応が分子間反応である可能性を否定できない。一方、本反応は、ボリン酸イオン、pH緩衝剤、および糖の間の相互作用が複雑に絡み合った特殊な反応であることがわったが、その反応機構はほぼ完全に解明できた。この結果は、ボロン酸による糖のセンシングの反応機構解明の範例になると考えられる。(iii) 多くのボロン酸とD-フルクトースおよびD-ソルビトールとの反応を速度論的・平衡論的に検討したが、殆どの反応系でpH緩衝剤による反応速度の加速効果が確認された。(iv) 発光性Pt(II)錯体([Pt(ppy)(bpyB)]+など)の糖の定量試薬としての実用性は低いことがわかったが、発光性Ir(III)錯体([Ir(ppy)2(bpyB)]+など)を用いると、約10–6 MのD-フルクトースの定量が可能であることがわかった。現在X線結晶構造解析のための単結晶の育成を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
ボロン酸とボロン酸イオンの反応性の違いは、反応機構の違いに基づいて説明されるが、両者の反応性の逆転が起こるのか、或いは本年度見出されたように、ボロン酸イオンの反応性があるpKaを境に上昇から減少に転じるために起こらないのかは、更に幾つかのプロトンアンビギィティのない反応系を用いて、詳細に検討する必要がある。 ボロン酸と過剰のD-フルクトースとの反応の二段階目の反応が、分子間反応なのか分子内反応なのか、あるいは両者の複合反応であるのかの手がかりを得るために次のような実験を行う。オルト位に置換基をもつために、D-フルクトースが三座で配位し難いと考えられる2-メチルフェニルボロン酸、2-イソプロピルフェニルボロン酸、ベンゾオキサボロールなどとD-フルクトースの反応を速度論的・平衡論的に精密に測定し、結果を厳密に解析する。また、NMRやその他の分光法による測定を行い、反応機構の解明を試みる。 ボロン酸と糖との反応においては、pH緩衝剤による反応の加速効果が明らかになっているが、ボロン酸とpH 緩衝剤や糖との相互作用を直接観測するために、ボロン酸として発光性のボロン酸(例えばキノリンボロン酸)を合成し、蛍光光度測定を行う。 本年度合成した発光性イリジウム(III)錯体は、D-フルクトースを比較的高感度に検出できることがわかったが、更なる高感度化を実現するために、フェニルピリジルボロン酸配位子の合成とそのイリジウム(III)錯体の合成を試みる。また、水溶性の観点から錯体改良を試みる。 現在、BPA(p-ボロノフェニルアラニン)が中性子捕捉療法の試薬として使われているが、溶液化学的観点からこれに代わるより効率的な新規ボロン酸試薬の合成を試みる(設計は既に終了している)。
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次年度使用額が生じた理由 |
額が少額のため、繰り越して次年度予算と合わせて使用するため。
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次年度使用額の使用計画 |
試薬の購入に充てる。
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