本研究では、医薬品の開発に不可欠な酵素阻害剤のスクリーニングを、従来法よりも簡便かつ迅速に行うことができる全く新しい蛍光検出型の分析システムの開発を目指した。本系ではカチオン性のポリマーがリポソームの脂質二分子膜を透過する現象を応用して、酵素反応溶液中の基質の濃度変化を蛍光強度の変化として検出する。こうして酵素反応を可視化し、酵素阻害剤の活性評価を容易にするラベルフリーなスクリーニングシステムを構築する。本研究においては、①生理的に重要な酵素の一つであるプロテインキナーゼならびにその阻害剤の活性評価、②酵素センシングの感度向上、③その他の酵素活性評価、に関する研究をそれぞれ実施した。2013~2014年度は主に①、②について試験を行い、2015年度はその成果を踏まえ③について検討を行った。 ①プロテインキナーゼ阻害剤活性の評価:プロテインキナーゼ反応液を逐次サンプリングし、蛍光性リポソームおよび膜透過性分子を加え、蛍光センシングを行うことができた。さらに、Daphnetinなど3種のプロテインキナーゼ阻害剤の蛍光センシングに成功した。 ②酵素センシングの感度向上:本系で用いる各成分の濃度など、分析条件を最適化することにより、従来法に比べ1/8の試料で分析を行うことに成功した。さらに、高い膜透過活性を持つ分子の開発にも成功し、従来の約1/300の量で活性を発現することが確認でき、酵素反応の高感度センシングに応用する道筋を立てることができた。 ③その他の酵素活性評価:生理的に重要な酵素群の一つである硫酸転移酵素を対象とした活性評価を行い、酵素反応の進行に伴って蛍光強度が上昇することを確認できた。これまで活性評価が容易ではなかった酵素についても、本酵素評価システムが有効であることを確認し、酵素活性評価システムとして高い汎用性を有することを実証できた。
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