研究課題/領域番号 |
25410155
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
森内 隆代 (川上 隆代) 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (60288751)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | イオン選択性電極膜 / パルス法NMR / 物性評価 / 可塑化 / 磁気緩和現象 / 横磁気緩和時間 / 緩和スペクトル |
研究概要 |
液膜型イオン選択性電極(ISE)の性能はイオン感応物質によって主に決まるが、電極膜中に数wt% しか含まれていないため、同時に用いる高分子剤・可塑剤・添加塩の化学的・物理的性質によっても著しい性能改善が得られる。電極膜の柔剛性は視覚的にも分かる物性変化であるが、電極膜の柔剛性の評価法すら確立されていない。本研究では、高次構造評価において有用な情報を可視的に与えるとして着目されつつある磁気緩和時間を用いる新規評価法の確立を目指した。 柔剛性と横緩和時間T2には相関があり、剛直だと短く、粘性だと長くなることが知られている。また、磁気緩和現象は原子・分子レベルでの現象であるため、単一材料であっても複数の横緩和時間T2成分を有していることが多く、試料の不均一性を示唆できる。 本研究では、パルスNMRを使用して横緩和時間T2測定し、その自由誘導減衰(FID)信号の数値解析から電極膜を構成している成分を柔剛性で分類し、存在する成分数とその存在比を算出することを試みた。その結果、Hahn-Echo法を用いて測定したFID信号の解析により、より柔らかい電極膜は相対的に長いT2値を与える主成分Fを有しており、可塑剤の重量比とln T2 (あるいはln 総 T2 × F )の間に、直線関係が存在することが明らかとなった。つまり、この解析手法は、可塑剤の含有重量が異なる電極膜の柔剛性の度合いを定量化できることが示された。 従来の手法では、簡便に存在する成分数とその存在比を算出できるが、用いるWeibull定数は限定されており、分子構造・結晶化度・分子の絡み度合い等のFID信号が本来持っている多数の情報を活用できない。そこで、本研究では、直接数値微分による緩和スペクトルの作成を試みた。その結果、可塑剤をより多く含むより柔らかい電極膜は、相対的に長い時間領域に緩和ピークを示すことが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度の研究実施計画の内容をすべて達成した。また、その内容は、学術論文雑誌Talantaに掲載予定となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、この磁気緩和時間を用いる新規な評価法を適用した例証を増やし、柔剛性を主点とする電極膜の物性評価法として確立することを目指す。そして、これまで不明であった柔剛性変化がイオン識別能に与える影響について、知見を得る計画である。そこで、まず、可塑剤の種類を変える等により、可塑化度合の異なるPVC電極膜の横緩和時間T2測定の例証を増やす。 同時に、平成25度に得られた結果を基にして、可塑化度合の異なるPVC電極膜の性能評価ならびに横緩和時間T2との相関について調べる。具体的には、横緩和時間T2を測定したPVC電極膜を使用して、実際にイオン選択性電極(ISE)を構築し、電極性能である電位応答性やイオン選択性などを電位差測定法(FIM法)により評価する。そして、電極性能が可塑化度合によってどのように変化したのかを検証する一方、FID信号の数値解析の結果との相関について検討する。 また、平成25年度に引き続いて作成する緩和スペクトルの精度を上げるため、横緩和時間T2測定のパルスシークエンスとしてSolid Echo法だけでなく、Carr-Purcell-Meiboom-Gill (CPMG)法を用い、広範囲のFID信号データを詳細に測定する。これにより得られる緩和スペクトルには、多くの情報が含まれることとなり、特に、剛直な成分・中間の成分・柔軟な成分それぞれにおける相互作用に関する知見の獲得を試みる。可塑化度合の異なるPVC電極膜は、視覚的には可塑化度合の差はほとんど見られない。よって、この差を数値化できれば、微小な柔剛性をも捉えることができる“可視化”評価法を確立できることになる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究は計画通りに進行していたが、12月に予想外の事実を発見し、この新事実に基づいて測定手法と解析法の大幅な改良を行った。そして、それまでのサンプルを再実験し、学術論文にまとめて投稿するのに時間を要し、年度末までに実質的な費用が発生しなかったため。 本年度に見つかった新事実を追及し次年度の研究に適用するため、薬品・ガラス器具を購入する物品費として、次年度使用額を使用する。
|