p-ニトロフェノール骨格を持つ有機リン化合物(パラチオン、スミチオン等)に選択的に応答するバイオセンサーの構築を目指した。例えば、パラチオンがFlavobacterium由来の有機リン加水分解酵素(OPH)の作用を受けると、p-ニトロフェノールが生成してくる。 申請者は、OPHの酵母表層発現に成功し、煩雑な酵素精製のプロセスを省くことに成功した。パラチオン検出は生成するp-ニトロフェノール(405nmに吸収極大を持つ黄色の化合物)の吸光度測定により可能であるが、OPH表層発現酵母を触媒とする場合には、測定溶液系が懸濁状態となるため吸光度の測定が困難になる。そこで、電気化学的測定法の適用となるが、p-ニトロフェノールの酸化還元電位は0.8V(Ag/AgCl sat. KCl)と高電位であり共存物質の影響が大きいため高感度測定が望めない。 そこで、大腸菌由来ニトロレダクターゼ酵素(NIR)によりp-ニトロフェノールをp-アミノフェノールに変換すれば、より低電位側0.2V(Ag/AgCl sat. KCl)で検出できるため、新たに大腸菌由来のNIR遺伝子を酵母表層発現ベクターに組み込みNIR表層発現酵母を創製した。異なる3種類のアンカーを用いてそれぞれ酵母(MT8-1)細胞表層上にNIRを発現し、それぞれの表層発現NIRの活性を同条件下にて比較を行った。その結果、NIRのC末端側にGPIアンカーを用いて表層発現させたタイプが、他2種に比べ3-4倍高い活性が得られることが明らかとなった。 以上の成果により、有機リン農薬(パラチオン、スミチオン等)をアンペロメトリックに測定するためのバイオセンサーの測定系が確立した。ただし、測定系で用いるNIRは、精製酵素あるいはNIR酵母表層発現体いずれかを選択した。また、実際の測定においてOPH並びにNIR酵素(あるいは表層発現体)を溶解状態とするのか、電極(グラッシーカーボン:GC)上に固定するのかによって分析感度は大きく影響を受けた。
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