研究実績の概要 |
本研究では、市販の無保護糖から一段階の反応により、オリゴ糖合成には不可欠な糖受容体を合成する方法を提案し、この糖受容体がC3位特異的グリコシル化反応(糖受容体と糖供与体の縮合反応)に有用であることをオリゴ糖合成を通して立証することを目的としている。さらに最終年度には、本方法を利用した生理活性オリゴ糖合成および従来法との比較することを計画した。 標的とする生理活性オリゴ糖には、インフルエンザウイルス結合性糖鎖のシアリルラクトースを選択した。グルコシル受容体には、無保護ラクトースから1段階シリル化反応により合成できるC1,C6,C6'-トリス(t-ブチルジフェニルシリル)ラクトースを利用し、グリコシル供与体にシアル酸誘導体を使ったグリコシル化反応を検討した。その結果、供与体にアノマー位にチオラウリル基、水酸基をアセチル保護したシアル酸誘導体を用いて、-40℃、ジクロロメタン/アセトニトリル混合溶媒中で、N-ヨードスクシンイミド、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルと反応させたところ、3糖体が59%で得られた。そのうち、6割程度はラクトースのC2にシアル酸が結合したもので、残りの4割程度が目的とするシアリルラクトースであった。他の単糖を供与体に用いたグルコシル化反応では、C3'位に選択的にグリコシル化反応が起きていたことを考慮すると、この結果は供与体であるシアル酸側の構造的な特徴に起因していると考察した。 すなわち、シアル酸供与体のC3位には置換基が存在しないため、反応点となるアノマー位(C2)周辺は他の単糖に比べ、立体的に空いている。そのため、シアル酸供与体では、シリル基間をすり抜けることができ、C2へのグリコシル化も進行したと考えられる。しかしながら、非常に簡便なスキームでインフルエンザ結合性糖鎖を21%で簡便に合成できることは特筆すべきである。
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