研究課題
基盤研究(C)
ヒトゲノムに対する理解が深まるにつれ,その編集操作にも関心が高まってきている。次世代の遺伝子改変・編集技術としてジンクフィンガー融合型DNA 修飾酵素を用いたノックアウト個体の作製例が増えている。新たなDNA 結合ドメインとしてTranscription-like activation effector(TALE)が同定され,ジンクフィンガードメインと同様に酵素への応用が試みられている。しかし,DNA 結合の詳細な解析,結合親和性と酵素活性の相関性などについて詳細な検討を行った例はない。そこで,本研究ではジンクフィンガードメイン,TALE ドメインをDNA 結合ドメインとするDNA 切断酵素,および世界初のメチル化酵素の構築を行い,それぞれDNA結合カイネティクスの違いによる酵素活性への影響について解析を行い,酵素活性の最適化に関する知見を得ることにした。当該年度においてはTALEドメインの作製方法について効率的に構築するプロトコールを確立した。また,MBP融合タンパク質として大腸菌内で発現し,抽出,精製を行い,各TALEドメインのDNA結合親和性評価を行うことを可能にした。これまでにASH1エクソン領域を標的としたTALEドメインを構築することに成功している。分割型DNAメチル化酵素についてはジンクフィンガー融合型と比較してTALEドメイン融合型においてはTALEのDNA結合様式がジンクフィンガードメインと異なるため,これまでの分割型メチル化酵素-DNA結合ドメインの融合形式とは異なる形での構築が必要とされる。そのため,様々なアッセンブリー様式の分割型DNAメチル化酵素(ジンクフィンガー融合型)を構築し,そのメチル化効率について定量を行った。次年度以降に行うTALE融合型酵素構築に有用な情報を得た。
2: おおむね順調に進展している
当該年度に予定していた(1)TALE ドメインの構築,(2)TALE ドメインとジンクフィンガードメインのDNA 結合カイティクス評価についてはほぼ予定通り研究を遂行することができた。TALE ドメインはヌクレアーゼのDNA 結合ドメインとして用いられる場合,16-28 塩基を認識するドメインとして利用される。アミノ酸数としては(30 アミノ酸)×(認識する塩基数)+(付加配列)になる。ジンクフィンガードメインは30アミノ酸から構成されるモジュールが3 塩基を認識する。そこで同じ18 塩基を認識するTALE ドメイン,ジンクフィンガードメインをそれぞれ作製し,MBP融合タンパク質として精製し,それらのDNA 結合に関して解析を行った。評価方法としては,ELISA 法によってエンドポイントでの濃度依存的な結合活性を測定する。より定量的な方法としてBIACORE を用いることで標的DNA 配列を含むヘアピンオリゴをチップに固定化し,精製したタンパク質の結合定数の算出を行うことが考えられるが,これについては次年度に取り組むことを予定している。また,(3)TALE ドメインを用いた分割型DNA メチル化酵素の構築については当該年度に構築したTALEドメイン,また新たに作成するTALEドメインを用いて次年度以降に作成することが必要になる。TALE融合型酵素についてはジンクフィンガードメインで構築した分割型DNA メチル化酵素とは異なるDNA への結合様式となる。酵素ドメインの会合についてはジンクフィンガードメインを用いた場合について当該年度において様々な会合様式のモデルを作製し,その活性を定量することができたため,次年度以降のTALE融合型メチル化酵素の構築も効率的に行えると考えられる。
(1)TALEドメイン融合型メチル化酵素の構築/TALE ドメインはDNA 認識部分の他にN 末端,C 末端に付加配列を必要とする。酵素活性の維持にはDNA結合ドメインと酵素ドメインの距離を適度に近くすることが必要であるが,付加配列が短すぎる場合DNA 結合活性が損なわれることが明らかにされている。そのため必要最小限の付加配列にする必要がある。ヌクレアーゼの場合も現時点では最適な付加配列の長さについて議論されている。分割型DNA メチル化酵素に関しても同じように付加配列の最適な長さを同定する必要がある。そのための実験として,ネイティブのTALE ドメインから付加配列を1アミノ酸単位で徐々に短くしたライブラリーを構築し,それらを用いてメチル化酵素ドメインとの融合体を構築する。(2)ジンクフィンガー融合型酵素とTALE融合型酵素の活性の比較/構築したTALE融合型DNAメチル化酵素に関して,これまでに構築したジンクフィンガー融合型酵素と同条件でメチル化反応を追跡する。大腸菌内に酵素遺伝子をコードしたプラスミドを導入する。同じプラスミド遺伝子上にメチル化の標的配列もコードしてあるため,大腸菌内で酵素が発現してメチル化反応が起こったのちにプラスミド遺伝子を回収する。メチル化反応の定量はメチル化配列を切断しない制限酵素(HhaI,FspI)を用いた切断反応によって行う。(3)ヌクレアーゼに関する評価/構築したTALENとZFNをin vitro翻訳系で発現し,プラスミド上にコードした標的DNA配列の切断を定量的に評価する。in vitro翻訳系を用いることでより厳密なタンパク質の濃度測定が可能となり,酵素活性を定量的に測定することが可能になる。
初年度においては主にTALEドメインの構築を大腸菌を用いたサブクローニングによって行った。そのため所要経費が当初の予定と比べて大幅に削減されたため次年度以降、哺乳類細胞を用いた実験のための消耗品として使用する経費に充てることにした。初年度に構築したTALEドメインは大腸菌発現に最適化されたコドンを使用して構築している。in vitroでのDNA結合実験で高い親和性が確認されたドメインについては哺乳類細胞での使用を予定している。哺乳類細胞に用いる際にはコドンを最適化する必要があり、これには合成DNAを業者委託によって作成する必要がある。次年度使用額をこのための経費として用いることを計画している。また,哺乳類細胞を用いた実験を行うに当たって実験消耗品を購入することが必要となる。この購入についても次年度使用額を利用することを計画している。
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